“楽”出身者の新店、新中野『まんまる』。名物はエゾ鹿も、“北海道にこだわらない”の真意
食べる相手のことを考えた柔軟な仕入れ先
食材の仕入れは「今日お店に訪れるお客様の顔を思い浮かべながら」が、楽コーポレーションの創始者である宇野隆史さんから続く伝統。齊藤さんも近郊にあるスーパーなどを3〜4軒ほど巡って、その日に使う食材を買い揃えているという。
「特にこだわっている訳ではありませんが、今日のメニューにある大ホッケやニシン、キンキなんかは北海道産です。中野ブロードウェイの『勝田商店』で買いました。肉じゃがに入っている玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモも結果的には北海道産ですね。ジャガイモやシャケは実家から送られてくる時もありますし、義妹の家が農家なのでアスパラやヤングコーンもおいしいのが手に入りますよ」
仕入れに合わせて毎日のようにメニューを変えるのもポイントだ。およそ8割が常連ということもあり、短いスパンで訪れた客にも新しい味を提供できるほか、平日と週末で求められるメニュー内容が変化することにも柔軟に対応できる。例えば北海道産のブランド黒毛和牛「星空の黒牛」の炙りレバーは、鮮度を落とさないためにも需要の高い週末のみ提供。もしもレバーが余ればパテに加工し、平日に提供するなど、ロスを出さないオペレーションとなっている。
トマト缶、赤ワイン、味噌などに隠し味として甘露醤油を加えて煮込む、肉じゃがも『まんまる』を象徴するメニューのひとつ。煮詰まりすぎないよう弱火で火入れを続けており、オーダー分だけ別鍋でアツアツに熱してから提供している。具材の煮込み時間は1〜3日ほど。タイミング次第で野菜の食感や味わいが変化するのも常連客に好評だ。
「正直、レシピは楽コーポレーションの『牛すじ肉じゃが』をパクりました。だけど、使っているエゾ鹿のすじ肉が“牛すじより三倍美味しい”んですよ。まったくと言えるほど臭みがなくて、茹でるだけで良い香りが漂ってきます。僕も初めて食べた時はびっくりしました」
居酒屋で愛され続ける“万人受けレシピ”は先人からの教えを大切に、故郷の食材を加えることで「都内で鹿すじ肉じゃがを提供しているのは、うちだけだと思いますよ」と、オリジナリティの高いメニューへと昇華している訳だ。
揃えたのは大衆居酒屋より“ちょっと良いドリンク”
北海道産の食材を活かした料理に合わせるなら、ビールもサッポロが王道だろう。『まんまる』では、「サッポロ黒ラベル 生」(600円)だけでなく「SORACHI ビール 生 」(600円)をドラフトで扱う。北海道生まれのホップであるソラチエースを100%使用しており、爽やかな飲み心地がハンバーグや肉じゃがなど、こってり系の料理を見事に引き立てる。
ビール以外の北海道産ドリンクは「なまらコーン茶割り」(500円)と「余市ワイン ボトル 赤・白」(各5,000円)程度。そのほかは「大の酒好き」という齊藤さんが各地から取り寄せた銘酒を揃える。
「この街は大衆居酒屋の名店が多いですから。そこと価格で勝負をするようなドリンクは置いていません。セレクトの基準は完全に僕の好みですけど(笑)。客単価5,000円で1日20人のお客様が来て10万円の粗利。そういったシンプルな経営を意識して全体のメニューを考えています」
