「立ち飲み×空中階」で驚異の坪月商100万円超。渋谷『型破離』の常識破りな経営論
コンセプトは「ジャンルレス中華」。トレンドではなく過去の経験からメニューを開発
今回の料理のコンセプトは「ジャンルレス中華」だ。『鉄砲玉』の看板メニューである生本マグロは、『型破離』では自家製香りラー油、ニンニク、醤油で味付けして提供。中華定番の麻婆豆腐も、和牛のひき肉に和山椒をあわせたり、ナポリタンにタバスコではなく自家製ラー油を使用したりと、中華を軸としながらも、和の要素や創作的なアプローチを取り入れている。
正木氏は「メニュー開発において、トレンドや他の店を参考にすることはほとんどない」と話す。SNSも活用せず、自身の経験や食材の組み合わせからインスピレーションを得て、独自の世界観を表現。従来の立ち飲み業態のイメージを上回る料理のクオリティと、唯一無二のメニューで、お客の心をつかんでいるようだ。
『型破離』は、あえて「立ち飲み」ではなく「立食」という言葉を使っている。これは、「立ち飲み=安かろう悪かろう」「お酒を飲まないと行きづらい」といった既存のイメージを払拭したいという思いの表れだ。
「中華料理は本来、お茶と共に楽しむ文化があり、ノンアルコールドリンクでも気兼ねなく料理と空間を楽しめる場を提供したいと考えました。立ち飲みならではの、スタッフやお客さま同士のコミュニケーションを、お酒を飲まない人にも楽しんでもらいたいです」と正木氏はその考えを明かす。
実際に、ノンアルコール客の比率も低くないという。お酒を飲まなくても、おいしい料理を食べたい、人とのコミュニケーションを楽しみたいという層を取り込むことで、立ち飲み業態の新たな可能性を切り拓こうとしている。
「ポーション分け」「ミールキット的仕込み」など、効率化&非属人化を図る
『型破離』のもう一つの大きなテーマは、「非属人的」な店作りだ。従来の店舗は特定の料理人に依存しており、加えてピーク時の提供が遅れがちという課題があった。そこで今後店舗を横展開することも見据え、誰がやっても一定のクオリティを担保できる効率的な仕組み作りを正木氏は目指した。
その核となるのが、「ポーション分け」と「ミールキット」的な仕込みである。例えばチャーハンは、卵チャーハンの状態まで仕込み、一人前ずつポーション分けしておく。ナポリタンも、麺を茹でて下処理し、ポーション分けしているため、オーダーが入ってから具材と調味料を合わせて炒めるだけで完成する。その時間約3分。しかもこの調理法の方が、パスタのモチモチ感が出ておいしく仕上がるという、一石二鳥な方法なのだ。
麻婆豆腐で使う豆腐や挽肉も同様に、一皿分でポーション分けを徹底。これにより、調理時間を大幅に短縮するだけでなく、オーバーポーションやロスを防ぎ、原価管理の精度を高める効果もある。この仕組みは、正木氏がかつて立ち飲み『晩杯屋』で培ったノウハウを応用したものであり、これまでの個人経営的な店舗運営から一歩進んだアプローチと言えそうだ。
メニュー構成は、調理経験が多少あるスタッフであれば対応可能なように工夫を凝らした。これにより、人材への依存度を下げ、多店舗展開を可能にする狙いがある。「箱(パッケージ)で売れる仕組み作り」に、スタッフの個性が加わることで、安定した売上基盤を築くことを目指しているようだ。
