池尻大橋『洋食api』の“地域住民を呼ぶ店づくり”。駅から徒歩10分も、リピート率は約8割
9.5坪の空間を活かす「二面性」の設計
『洋食api』がユニークなのは、そのレイアウトだ。校庭側の公園に面したファサードと、施設内の廊下に面したファサードの2つを持つ。この特徴を最大限に活かし、「二つの顔を持つ」というコンセプトを空間設計にも落とし込んでいる。
「公園に面した側はロケーションが非常に良く、夜のシーンは特にきれいです。そこで、こちら側はファミリーや会食などでゆったりと使っていただき、廊下側はカウンター席とスタンディング席を中心に、お一人や少人数で気軽に楽しんでもらえるようなゾーニングを考えました」
さらに、あえて店内に段差を設けることで、居酒屋のようなフラットな空間とは異なる、おこもり感のある雰囲気を演出。シーンを明確に切り替える狙いだ。この戦略は、特定のターゲットに絞らず、あえて間口を広げることにも繋がっている。
昼は近隣のワーカーやファミリー、シニア層が洋食を楽しみ、夜はワインと共に本格的なイタリアンやスパニッシュ料理を味わいたい大人が集う。この二面性によって、幅広い層がそれぞれの使い方で店を楽しめるようになっている。
夜の客単価7,000円でもリピート率は約8割。満足度を最大化するメニューと接客
客単価は昼が2,000円前後、夜は約7,000円だ。決して安くはない価格帯だが、リピート率は体感で8割を超えるという。予約も半数以上で、外国人の来店も少なくない。その秘訣は、メニュー構成と柔軟なオペレーション、そして丁寧な接客にある。
看板メニューのパエリアは、オペレーションを工夫し30分以内で提供。席数が限られる中でも、スムーズな店舗運営を可能にしている。また、基本的に滞在時間の制限を設けていないのも特徴だ。
「これまでの居酒屋業態のようなスピード感とは異なり、ゆっくりと時間を過ごしていただくことを前提にしています。客単価が高い分、それに見合った体験価値を提供しなければなりません。食材の背景にある生産者さんの思いまで伝えられるような、知識と提案力を兼ね備えた接客を標準にしていきたいです」
今回、パティシエも店に在籍している。名物は、焼いたメレンゲとアイス、ホイップを挟み、季節のフルーツを使ったフランス菓子の「ヴァシュラン」だ。従来の洋食店のイメージを覆すようなクオリティの高さと、来店客のニーズが合致し、ランチでのデザートオーダー率も高く、客単価を押し上げている。
メニューは半月から月1回のペースで刷新することを基本としながら、支持されている定番は継続するハイブリッドな運用で、お客を飽きさせない。
ドリンクの主役であるワインは、国産、自然派、クラシックと幅広く揃え、どんな人でも楽しめるように配慮している。
集客面では、施設側との密な連携が大きな効果を生んでいる。大型商業施設とは異なり、施設側がSNSで日々の情報を細かく発信してくれるため、常に新しいお客の目に触れる機会が生まれているという。
