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恵比寿『粋』、月商1,300万円の理由。35歳オーナーが導き出した「単価6,000円」の空白地帯

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障子で仕切られた個室。空間全体は古材や土壁を用いるなど温かみがある(写真提供:株式会社タイムエース)

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空間と接客に宿る“ちょうどよさ”。大箱でも属人性を手放さない

空間づくりでは、恵比寿の需要と空中階という立地を逆手に取り「隠れ家感」を演出。メインフロアの周囲に和モダンな個室(2~8名用・計23席)を細かく配置し、厨房前には普段使いできる一枚板のカウンター席を設けた。客の利用シーンに応じた選択肢を用意し、高級すぎない居心地の良さを提供している。

ハード面だけでなく、ソフト面(接客)の努力も思いのほか、泥臭い。新規客が7割を占める繁華街の店舗ではあるが、残り3割の常連客の顔と好みを記憶し、「限定の日本酒が入りましたよ」といった個別の声掛けを徹底する。

「約120席の大箱店舗もあるため全店一律に行うのは難しいですが、街のニーズに応じてベストな接客を尽くします」(楊氏)

ドリンクメニュー数は約100種。サントリーの全面協力のもと入荷できる希少なウイスキーや、小池氏のツテで仕入れられる特別な日本酒が目玉

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補足するように飲食業歴33年の小池氏も語気を強める。

「極論を言えば『あのスタッフに会いに行きたい』と思ってもらえるかどうか。魅力的な料理に甘んじず、人間力で勝負するための従業員教育に力を入れています」

京都の老舗「瓢正(ひょうまさ)」で懐石料理を学んだ小池氏

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自社競合を避けるドミナント出店と、しなやかなローカライズ

盤石な体制を築いた『粋』は、恵比寿と似た商圏(田町、川崎、名古屋、新横浜)へ水平展開を進めている。ここで注目すべきは、メニューの7~8割は共通化しつつ、残りの2〜3割でローカライズ(街のニーズへの適合)を図っている点だ。

『粋 恵比寿店』のフードメニューの一部。原価率は27%に抑えている

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例えば、名古屋(名駅店)では黒毛和牛ではなく、地元・愛知の知多牛を使用。味噌カツ串、味噌煮込み、手羽先などの定番ご当地グルメを「いい意味でプライドがないので」(楊氏)積極的に導入した。ただ、味付け自体は、楊氏と小池氏が現地の有名店を何軒も視察しながら研究を重ねたオリジナルで、これが地元客にも好評だとか。

さらに、恵比寿エリアでは強力なドミナント戦略を展開。2025年7月には、寿司居酒屋『粋はなれ 恵比寿店』をオープンした。渋谷『大人気』監修のアサリ出汁のおでんを進化させた「のどぐろ出汁おでん」と江戸前鮨を2大名物とし、『粋』から流用した酒肴が脇を固める。売上は月商800万円(17坪)を達成。客単価を『粋』とほぼ同額の5,800円に設定し、予約で溢れた本店からの送客(受け皿)を見事に機能させている。

その2か月後には、同ビル上階に客単価約2万円(ディナー)の完全予約制高級寿司『鮨かわむら』を開業。職人歴40年の大将が握る本格江戸前鮨でアッパー層を囲い込み、17坪で月商1,000万円を叩き出す。異なる価格帯と業態を同じ街に密集させることで、自社競合を起こさず、街全体のシェアを面で奪う戦略だ。

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小林智明

ライター: 小林智明

埼玉県出身。情報誌の編集プロダクションを経て、2006年にライターとして独立。食、旅、スポーツ、エンタメなど多岐にわたり取材・執筆活動を展開中。グルメ取材はラーメン店を中心に計500軒を突破。好きなお酒は辛口純米酒。