居酒屋の「専門店化」は儲かるのか? 梅田『NARI屋』に聞いた業態転換の秘訣

『NARI屋』の人気メニュー「ムーカタ鍋」
低価格メニューを打ち出した大手居酒屋チェーン店が賑わっていたのも今は昔。最近は大衆酒場であっても、串カツや餃子といった名物メニューを掲げている店に勢いがある。その背景には、安さだけを単純に求める消費者が減りつつあることが挙げられるだろう。
低迷が続く総合居酒屋のような業態にあって、業態転換を視野に入れている店も多いはず。例えば海鮮居酒屋がウニ専門店になったり、スペインバルが肉専門バルになったりと、あちこちでこうした専門店化を見かけるようになった。
果たしてこのような専門店化は実際のところ上手くいっているのだろうか。その実情を知るために、今回は立ち呑み居酒屋から業態転換を経験した飲食店オーナーに話を聞いた。
内装は少しずつリニューアル。無理をしない業態転換
大阪・梅田でアジアン居酒屋『NARI屋』を経営する中嶋良成さん。お初天神裏という飲食店で賑わうエリアで最初に始めたのは、立ち呑み居酒屋だった。
「2013年ごろ、立ち呑みスペースをカウンター席に変更し、テーブル席も設置しました。強く“業態転換しよう”と思っていたわけではありません。立ち呑みスペースが老朽化していたので、知り合いの大工さんにカウンターなどを用意してもらったんです。それで少しずつ手を加えて現在の形になりました」
一気に内装工事をするのではなく、少しずつ改良を加える。中嶋さんの業態転換は手の届く範囲から始まったようだ。
ちなみに中嶋さんは、中華料理やアジア料理店で働いた経験があったのだそう。立ち呑み居酒屋からアジアン居酒屋として再スタートするのは、経験をより強く生かすための選択だったのかもしれない。
「もともと立ち呑み屋のときのメニューもアジア料理を意識していましたが、テーブル席を作ったことで、本格的なムーカタ鍋のコースや飲み放題などを取り入れられるようになりました。流行のパクチーを使った料理やドリンクも充実させています」
ムーカタ鍋(焼肉火鍋)とは、タイ風の焼き肉と薬膳風鍋が同時に楽しめるアジア料理。新しいものが好きな女性を中心にウケている。パクチーをたっぷり使ったオムレツやチューハイも人気だ。

立ち呑みスペースを廃し、テーブル席を設置
回転率か客単価か? 一長一短の業態転換
8坪22席で営業中の『NARI屋』。業態転換してどんなことが変わったのだろうか。
「団体のお客さまを案内できるようになったこと。そして、メニューを一新し、テーブルを置いたことで、客単価が倍ほど上がったことです。でも、それは滞在時間も伸びるということでもあります。立ち呑み業態で営業していたときの方が回転率はよかった。さらに言うと、ひとりで切り盛りしていた頃の方が利益としてはよかったかもしれません。どっちがいいのかっていう答えは、まだ自分では出せない。でも、今のままやっていくつもりです」
業態転換は一長一短があることを教えてくれた中嶋さん。とはいえ、中嶋さんは現在、従業員を5人まで増やし『NARI屋』のほかにも2店舗を出店。『NARI屋』が満席の際は、姉妹店『中華バル Nariya』に送客するなど、集客ロスが発生しない形で巧みに運営している。最初の立ち呑み居酒屋では成し得なかった多店舗経営を実現させたのだ。
業態転換が正しかったか否かはまだわからないと語るが、新たなステージへと歩んでいるのは確か。中嶋さんのように大きな負荷を掛けない業態転換は、自分の新たな可能性を探るのにピッタリな方法だといえるだろう。

個性ある外観に誘われて来店する客も多い
個性を出しながら、時代を見極めることが大切
『NARI屋』の場合は、下記のような要素があったから業態転換がスムーズにいった。ポイントを紹介しよう。
・一度に改装費用をたくさん掛けなかったこと
・もともと中華料理やアジア料理の経験があったこと
・パクチーなど流行の食材をきちんと捉えていたこと
飲食店にとって業態転換は大きな賭けといえるが、中嶋さんのように少しずつ転換していけばリスクも少ない。また自身の強みを最大限に生かしつつ、トレンドをさりげなく取り入れることで相乗効果も期待できる。業態転換を検討している方は、ぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。
『NARI屋』
住所/大阪府大阪市北区曾根崎2-5-38
電話番号/06-7506-1851
営業時間/11:30~14:30(月曜~金曜)、17:00~翌3:00
定休日/不定休 席数/22
http://www.hotpepper.jp/strJ001041652/
