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人生をかけて無添加・無農薬の「食」に挑戦。『キッチンわたりがらす』、時代が追いつき大繁盛!?

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『キッチンわたりがらす』のオーナー・村上秀貴氏。手には千葉県産の春菊と紫玉ねぎが

昨今、食における健康志向が高まっていると言われる。その一方で、オーガニック(有機)食材や無農薬、無添加にこだわる場合、商売として成立が難しいという側面もある。2009年の開店から無農薬・無添加食材で人気を集めている『キッチンわたりがらす』のオーナーである村上秀貴氏(41)に無農薬、無添加へのこだわりと将来への展望を聞いた。

土の良さを活かす無農薬野菜、合成添加物使用せず「淡く複雑な味」実現

健康志向の波は大手の企業にも及んでいる。最近では牛丼の『松屋』(株式会社松屋フーズ)が化学調味料・人工甘味料・合成着色料・合成保存料を使用しないメニューの開発を進めることを明らかにしている。また、大手スーパーのイオンでは1993年から自然環境に配慮したブランド「グリーンアイ」を立ち上げ、2014年には「トップバリュ グリーンアイ オーガニックシリーズ」として有機食品を多く扱っている。

そうした中、『キッチンわたりがらす』は2009年の開店時から無農薬の野菜と米にこだわり、ソースやたれもすべて自家製のものを用意。添加物、化学調味料、冷凍品は使用せず、肉は国産、魚介類も港から直送と、こだわりのビジネスを行なっている。

村上氏がこだわる無農薬は「土の良さを活かす」という考えに立脚している。「土の味が野菜の味です。土をよく作れば野菜の味になります」と言う。農薬を使用した場合、1、2回撒いたぐらいでは顕著な差は出ないとしても、土の微生物を死滅させる程度の量になると味が不自然になるという。そうした点から無農薬の野菜や米を使用している。もっとも無農薬でも工場でつくる水耕栽培の野菜などは「微生物が少ない環境で育ったものは味が薄いと感じます」という理由から使わず、土へのこだわりを見せる。

また、合成添加物も一切使用せず、ソースやたれも自家製にして一から作っている。合成添加物を使わないのは素材をより活かすためである。「素材の美味しさを活かしたいというのがあります。それから合成添加物が入っていると、種類も多くないので単一の味がすると思います。入っていない料理は、淡い中にも複雑な味がします」と説明する。

『キッチンわたりがらす』では1000円、800円の弁当も提供

「無農薬・無添加」のビジネス化へ立ちはだかる「原価の壁」

もっとも、いいことばかりではない。無農薬・無添加にこだわった場合、原価が高くなるため、ビジネスとしては成立が難しくなるという大問題が横たわっている。『キッチンわたりがらす』では1000円、800円の弁当も提供している。原価を考えるとかなり厳しい値段である。「そもそも1000円でやれることは限られます。今、有機(無農薬・無添加)でやっている店は、これぐらいの価格では、都心の家賃を払っていくのは難しいと思います。食べる人は幸せかもしれないけど、働いている人がどれだけ報われるかということです。思いだけでは食べていけません」と苦しい事情を明かす。しかし、そうした問題点も、村上氏はいくつかの方法で解消した。

1、食材を産地から直接仕入れる(流通経路の単純化)
2、ケータリングの活用(総売り上げのアップ及びアイドリングタイムの効率化)

日本では無農薬の野菜自体が少なく、市場に出回る可能性は低い。それもあって同店では農家から直接仕入れる方法を採用している。大学を卒業後、世界20カ国を旅した村上氏にすれば、食材を求めて日本中を回ることはそれほど苦にならない。その結果、農家から直接仕入れることで中間の流通経路を省略でき、市場で仕入れるより安価で食材を手にすることができる。このあたりは大手ではなかなかできない部分である。

この方法だとマーケット価格に左右されることなく、ほぼ一定の価格で仕入れることができる。提供する農家も、マーケット価格が暴落するリスクを回避できるというメリットがある。

また、客席数が限られているため、ケータリングに力を入れて客席数を大きく上回る売り上げを求めた。大量に売ることで原価を圧縮するのである。ケータリングは2万5000円からと大口注文に限られるが、CMや雑誌の撮影現場のロケ弁などでの需要が多い。タレントには健康志向で無農薬・無添加にこだわる方が多く、注文につながっている部分があるという。

ケータリングを行うことは売り上げの向上、同時にアイドリングタイムの効率化にも寄与している。一般の飲食店が使っていない早朝やランチ後(15時から18時)の時間帯にケータリングと弁当を作っており、施設も人もフル稼働できる。「朝7時から午前1時までノンストップですから」(村上氏)というのも決して大げさではない。

厨房には鉄のお釜などこだわりの調理道具が

無農薬・無添加へのモチベーション、そして将来

村上氏がこうした無農薬・無添加食材を扱い始めたのは「自分が気持ちいいから」だという。「働きながら社会に貢献していく、誇りに思うことをやっていきたいということです」と説明する。

冒頭で示したように、ここに来て健康志向の高まりから「無農薬・無添加」への注目度は高まっている。開店した2009年当時と比べると「有機について扱う企業も、それに伴う宣伝も圧倒的に増えていると感じます」と言う。その効果は『キッチンわたりがらす』にも及び、「ウチもスタート時に比べれば売り上げは3倍以上になっています」と明かす。

ちなみに売り上げを支えるのはリピーターである。特に女性の来店が多く、ランチに来る7割から8割はリピーターだという。無農薬・無添加を健康のために食するのであれば、単発では意味がない。その意味でヘビーなリピーターがつきやすく、「無農薬・無添加」の一つのビジネス上のメリットと言えるだろう。

現在、同店は改装中で、弁当だけの提供を行っている。7月中旬頃に新装開店となるが、そこでは炭火を導入して直火での料理を提供して、より素材の美味しさを活かせるようにする予定だ。直火で焼くこと、落ちた油が炭に当たって出る煙で燻製のような香りがつくことなどで旨味が増す効果が期待できる。無農薬・無添加は素材の旨さを出す手段だが、そのために焼き方にもこだわりを広げていく。

こうしたこだわりが、高い支持を集める一因であることは容易に想像がつく。信念に基づいて始めたビジネスに、時代が追いついてきたと言うべきなのだろう。「自らの信念、それ自体が仕事にならないと難しいビジネスですね」と問うと、村上オーナーは笑いながらこう答えた。

「いや、それ自体が『人生』にならないと難しいです」。

『キッチンわたりがらす』 オーナー・村上秀貴
1975年、札幌市出身。1999年に東京工芸大学建築学部を卒業し、その後、中近東、カリブ海など20カ国を旅する。帰国後、雑誌「雷神」を創刊。2009年にケータリングを中心とした『キッチンわたりがらす』を南麻布で始め、2012年に現在の恵比寿に移転した。同年2月にはNHK総合でタレント杉浦太陽とともに調布市で食材探しをする番組に出演するなど、メディアでも活躍している。

■キッチンわたりがらすの食材・香辛料
塩…沖縄県粟国島 職人塩
砂糖…喜界島赤ザラメ
しょう油…ヤマキ醸造 木樽熟成
味噌…自家製国産有機大豆
みりん…小笠原味醂 本格三河みりん
酒…大木大吉本店 純米酒
干し椎茸…対馬産原木椎茸
米…無農薬栽培陽光米(精米は店で行い、鉄羽釜で炊き、木製のおひつで蒸らす)
野菜…各地方から農家直送、無農薬栽培野菜
魚…高松港直送
肉…大山地鶏、十勝産放牧「どろ豚」、和牛
卵…広島県ジョニー農園 平飼い鳥
乳製品…東毛酪農、よつ葉牛乳
こんにゃく…群馬県生こんにゃく
油…鹿北製油 国産非遺伝子組換え菜種
豆腐…箱根湯本 荻野豆腐店 国産大豆
自家製の加工品…パン、ハム、ベーコン、魚粕漬け、塩麹、マヨネーズ、ケチャップ、ぬか漬け等

『キッチンわたりがらす』
住所:東京都渋谷区東3-24-14 1F
TEL:03-3797-1515
ランチ:11:30-15:00(L.O:14:00)
ディナー:18:00-24:00(L.O:23:00)
※7月中旬頃まで改装工事で弁当販売、ケータリングのみ
http://watarigarasu.jp

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/