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じつは奥が深いドギーバッグ問題。食品ロス対策へ、普及に問われる「社会の成熟性」

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ドギーバッグ普及委員会が配布しているスターターキット(飲食店の会費は¥5,000 )

飲食店での食べ残しによる食品ロスは限りある資源のむだ遣いであり、環境にも悪影響を与えかねないとして社会問題となっており、農水省など行政もその対策に動き始めている。その有効な対策となりうるのが、食べ残しを持ち帰る「ドギーバッグ」の活用。多くの店舗で導入すれば食品ロスは解消に近づくと思われるが、事はそれほど単純ではない。なぜならその導入、有効な活用には「社会の成熟性」とでも呼ぶべき社会環境が不可欠という、越えるべきハードルが存在するからである。

年間600万トン超の食品ロス、農水省も対策に乗り出す

わが国の食品ロスは、年間で約621万トン、このうち約339万トンが食に関連する事業から発生し、さらにその35%(約119万トン)が外食産業から発生している(「飲食店等における食べ残し対策に取り組むに当たっての留意事項」=2017年農水省)。これらの数字は本来食べられるにもかかわらず廃棄される量を示しており、国民1人あたり年間で約50キロが廃棄されている計算。多くの国で同様の問題が発生しており、食品ロスに対する国際的な関心は高まっている。

2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では食料の損失・廃棄の削減が目標として設定され、それを受ける形で農水省は3月に「食べものに、もったいないを、もういちど」というコンセプトのもと「食品ロスの削減とリサイクルの推進」という指針を打ち出した。

外食産業での食品ロスを少なくするために有効なのがドギーバッグ。アメリカで普及し、食べ切れない料理を専用のバッグに入れて持ち帰るシステムである。料理を持ち帰るのは体裁が悪いと考える人へ、犬に与えるために持ち帰るという名目で「doggy bag」と命名されたと言われる。ただし、日本では広く市民権を得ているとは言えない。最近、大津市が正しいドギーバッグの使用を推奨するとして、市内の店舗に配るポスターを作成すると報じられた(Web版京都新聞6月26日)が、このことは逆に日本での浸透度の低さを示している。

Photo by iStock.com/foxestacado

ドギーバッグが普及しない理由、経営学的見地から当然?

日本でなかなか普及しないのはなぜか。愛知工業大学経営学部教授、ドギーバッグ普及委員会の小林富雄理事長は「何かあった時のデメリットが多いからでしょう。店舗側のメリットが見えにくいこともあると思います」(以下、コメントはすべて同理事長)と分析する。

店舗にすれば客が持ち帰る間に食材が傷んで食中毒などの症状が起きれば、損害賠償を請求される可能性がある。一方で客が料理を食べ残しても、持ち帰っても得られる金額は変わらない。つまりリスクを負ってドギーバッグを導入しても、経済的なメリットはあまりない。それなら導入しない方がいいという考えは、経営学的見地から考えて合理的な選択である。

法的な見地で考えれば、客が飲食店で食事する場合、ドライブスルーなどの例を除けば、通常、店舗は客に対し店舗内で安全な食べ物を提供する義務を負う。それは自ずと一定の時間的制約があると考えられ、社会通念上、客が持ち帰った場合の安全性まで担保する義務を負わないとするのが自然。そのため、持ち帰った料理が傷み、食中毒になったとしても債務不履行責任や不法行為における過失責任を直ちに問われる場合は少ないだろう。要は訴えられることによるイメージダウン、応訴する労力等のリスクが問題なのである。

持ち運びがしやすいサイズ感

日米で異なる事情、その違いは「自己責任」

日本では2010年前後にドギーバッグの導入を図る店舗が増えたが、その流れが少なくとも拡大することがなかったのは、以上の点に問題があったと思われる。その点、ドギーバッグを生んだアメリカは日本と状況が異なる。

「日本との違いは自己責任です。アメリカの自己責任は徹底しています。持ち帰って何かあれば自分の責任、ということです」。

店舗側にしても折角作った料理を残され、それを廃棄するのは本意ではない。また肉、魚であれば生命との引き換えである。食べ残しが減ればいいと考えるのは店舗側も同じ。店舗も、客も同じ方向性を持っているのにその有効な対策のドギーバッグが普及しないのは、特に客の方が責任の所在を意識して行動できていたかという点に問題があったと考えられる。

「何でも人のせい、国や店のせいにする社会では、ドギーバッグの普及は難しいと思います。自分でできることはやった上での責任追及であるべきです。それは自立した大人であること、あるいは社会の成熟性と言えるでしょう」。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/