約7割の飲食店が1年以内に従業員の待遇を改善。飲食業界の「働き方改革」の実態

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長時間労働や残業代未払いなどの問題がきっかけとなり、今、国が推進している「働き方改革」。飲食業界もその例外ではない。近年問題となっている人材不足の解消に向け、従業員らのワークライフバランスを考えた「働き方」が意識されるようになってきた。
一方、一般企業とは異なる給与水準や拘束時間の長さ、休日の少なさなど飲食業界ならではの理由で、改善に難しさを感じるという声も。そこで、飲食業界における働き方改革の実態を調査。過去一年以内に行った従業員の待遇改善の内容とともに紹介する。
■調査概要
調査対象:飲食店.COM会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:163名
調査期間: 2017年12月12日~2017年12月17日
調査方法:インターネット調査
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■回答者について
本調査にご協力いただいた回答者のうち、60.7%が1店舗のみを運営しております。また、回答者のうち東京にある飲食店の割合は59.5%(首都圏の飲食店の割合は74.9%)となっており、こうした背景が結果に影響していると推測されます。
8割近くの飲食店が「従業員数が不足している」と回答
まず、従業員数が不足しているかどうかを聞いたところ、「不足している(79.8%)」「充足している(20.2%)」という回答が得られ、飲食業界における人手不足の深刻さを裏付ける結果になった。

約8割の飲食店が従業員の不足を感じている
次に、飲食業界で「働き方改革」を行う必要を感じるかどうかを聞いたところ、「そう思う(83.4%)」「そう思わない(16.6%)」という結果に。その理由を聞いたところ、以下のような回答が得られた。
■そう思う
「長く働かず転職を繰り返す人が多い業界というのを改善しないと、他業種への流出も増えていくのでは」(東京都/イタリア料理)
「拘束時間が長く賃金も安いため、働き手がなかなかいないのが現状。賃金を多く出してあげたいが、飲食店の収支ではなかなか難しい」(滋賀県/和食)
「飲食業界は、朝から夜遅くまでの長時間労働が当たり前。そのため、仕事がキツく辞めてしまう人が少なくない。長く仕事を続けてもらうには、休みを増やしたり早番遅番などを設け労働時間を短縮しなければいけないと思う」(東京都/イタリア料理)
「これまで通りの飲食業界だけの常識の中で採用活動を続けていても、優秀な人材は確保できなくなっている。他の業種との競争力を高めるためにも、飲食業界全体で改革に取り組んでいくことが必要な時期に来ていると感じる」(東京都/和食)
「ワークシェアリングや外国人の採用、IoTの導入、キャッシュレス化など、既存のやり方から大きく変えていかないと、変化のうねりに対応できなくなって取り残されてしまう危機感がある」(東京都/カフェ)
■そう思わない
「従業員の待遇を改善すると、利益が確保できない。ブラック企業を推進するわけではないが、事実上難しい」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)
「実際に勤務時間の短縮をしたら単純に利益が出ない」(東京都/そば・うどん)
「飲食などのサービス業はただでさえ人が休む・遊ぶ時間に働く仕事なので、労働基準法をすべて当てはめるのは難しいと思う」(東京都/専門料理)

ほとんどの飲食店が「働き方改革」の必要性を感じているようだ
人手不足が続き、優秀な人材をなかなか確保できないでいる状況の中で、多くの飲食店経営者が業界全体で意識を変えていかなければならないと考えているよう。しかし、こうして問題意識を持つ一方で、現状の利益の中では限界があるという声も多く挙がり、課題の大きさが浮かび上がる結果となった。
66.3%の飲食店が、過去1年以内に従業員の待遇改善を実施
次に、過去1年以内に従業員の待遇の改善を実施したかどうかを聞いたところ、「実施した(66.3%)」「実施していない(33.7%)」という結果に。

66.3%の飲食店が従業員の待遇改善を実施
「実施した」と回答した人に対し、待遇改善が人材確保にいい影響を与えたかどうかを聞いたところ、「効果があった」と回答したのは45.4%。また「効果があった」と回答した人からは、以下のようなコメントが得られた。
「離職率が明らかに減少した。もちろん人件費は高くなるが、今は好循環で回っている」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)
「従業員数を増やした。調理・サービスのやり方を見直し、無駄な時間を減らした。だらだら残業を無くした。夏季・冬季休暇を増やし、その期間に公休をプラス、店舗の完全休業日を増やした」(東京都/フランス料理)
「営業時間を短縮したが、1日トータルの作業は変わらないので従業員側も効率の良い働き方をしてくれるようになった」(東京都/その他)
「社会保険に加入することにより、求人募集をかけた時に面接へ来てくれる人数が増えた」(東京都/居酒屋・ダイニングバー)
「アルバイトでも長く勤めれば有休休暇を取れるようにした。その結果、すぐに辞めることがなくなった」(静岡県/居酒屋・ダイニングバー)

待遇改善を行った飲食店の45.4%が、採用活動に好影響があった
さらに、過去1年以内に従業員の待遇の改善を「実施した」と回答した人に対し、実施した施策の内容を聞いたところ、最も多かったのは「給与の引き上げ(75.9%)」。以降、「時短勤務など柔軟性のあるシフトの導入(42.6%)」、「従業員の休日を増加(36.1%)」、「福利厚生の充実(28.7%)」、「営業時間の短縮(22.2%)」、「定休日を増加(10.2%)」、「二交代制の導入(3.7%)」と続いた。

比較的導入をしやすい施策から取り組んでいるようだ
多くの飲食店が「給与の引き上げ」を実施したと回答しているが、その理由としては、2017年10月に実施された最低賃金の引き上げも影響していると考えられる。また「定休日の増加」や「二交代制の導入」など、経営に大きな影響を与える可能性のある施策を実施した飲食店の割合は低く、まずは勤務時間の短縮など、比較的導入をしやすい施策から取り組みを始めている状況がうかがえる。
また今年は、大手外食チェーンも「働き方改革」を積極的に行った年となった。例えば、『ロイヤルホスト』を運営するロイヤルホールディングスは、全店舗の24時間営業を廃止。また、すかいらーくグループでは、勤務地域を限定して働く「地域社員」に対して、一カ月単位の変形労働時間制度を採用。業務計画に応じ、5つの勤務パターンの中から自由にシフトが組めるようになり、子育てや介護などで働き方に制限がある人が、福利厚生や賞与などの正社員待遇を受けながら就業できるようになった。
慢性的な人手不足を背景に、多くの飲食店経営者が業界に対しての問題意識を持ちつつある。2018年もその流れは止まることなく広がっていきそうだ。
「飲食店リサーチ」について
「飲食店リサーチ」では、飲食店を経営する皆さまに、店舗運営に関する様々なアンケートを行っています。 アンケート結果は、飲食店の皆さまに店舗経営のヒントとして活用していただけるよう、レポート記事として公開されたり、 皆さまが利用する業務用商品やサービスなどの開発に役立つデータとなります。
