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東京都が「熟成肉」の扱いについて注意喚起へ。生食できると誤った認識を持つ飲食店も

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Photo by iStock.com/NightAndDayImages

5、6年前から、主に牛肉を一定期間寝かせた「熟成肉」がブームだ。今ではその人気が定着し、専門店だけでなくファミリーレストランや牛丼チェーン店でも提供されるようになった。ただ、熟成肉の定義はない。品質、衛生管理についても国の基準があるわけでもない。そのため、現状では、製造する業者や飲食店は独自の手法で熟成し、独自のルールを設けるなどして安全を確保している。

こうした現状を踏まえ、東京都健康安全研究センターが昨年末「いわゆるドライエイジングビーフの衛生学的実態調査」として、熟成肉に関する調査を実施した。対象は、専用の熟成庫で温湿度や風、真菌などの環境条件をコントロールしながら長期間熟成し、表面をトリミングして食用とする方法でドライエイジングビーフを自家製造する都内11の飲食店や販売店、食肉処理業者。こうした衛生管理調査は、これが初めてだという。

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熟成肉を生で食べられるという誤った認識も

発表された調査結果からは次のことが明らかになった。

まず、製造方法については、熟成の方法や条件は事業者によってさまざまであり、同じ熟成法を行っている施設は一つもなかった。肉の熟成期間は、大半の事業者は28日前後としているが、全体では14日~100日間と大きなばらつきがある。そして、熟成後は肉のまわりに付着したカビを取り除く「トリミング」作業を行うが、表面からどれくらいの厚さの肉を取り除くかについても事業者ごとに異なった。トリミングできているかどうかの確認は、事業者のすべてが目で見て判断している。

これらの事実は、事業者それぞれが経験に頼って熟成肉をつくり上げていることを示している。調査名が「“いわゆる”ドライエイジング……」とされていることにも頷ける。

今回、聞き取り調査も行われており、熟成を失敗し肉を腐らせた経験がある事業者、熟成肉を生で食べられるという誤った認識を持っている事業者がいることが分かった。また、2事業者からは、熟成後の肉から食中毒を引き起こす恐れがある「リステリア菌」や「黄色ブドウ球菌」が検出された。取り除いた部分からは、腐敗の目安になる窒素量が高く検出された。

東京都によると、熟成肉による健康被害の相談はこれまで寄せられていないという。しかし、「熟成肉も生肉と同じように十分な加熱が必要だ」「二次汚染対策の必要性がある」といった注意喚起をしていくとしている。

では、飲食店が熟成肉を扱う場合、どんなことに注意をしたらよいのだろうか。仕入れる場合、事業者が安全性への取り組みを怠っていないか、極端な独自ルールを定めていないか、しっかり見極めたい。そして、熟成肉は徹底した低温管理のもと保管しなければいけない。冷蔵庫内は開け閉めによって温度変化が起きるが、これをできる限り少なくする必要がある。“当たり前”の取り組みも見直すべきだ。肉だけでなくスタッフが使用する手袋や包丁、まな板などの調理器具は二次汚染を引き起こしかねない。

飲食業界において、あるブームが起き、それが食文化になっていくことはうれしいこと。今後、熟成肉について信頼できる基準が設けられ、多くの飲食店で活かせるようになることを期待したい。

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岩﨑美帆

ライター: 岩﨑美帆

1982年生まれ。NPO活動に没頭した 大学時代、塾講師、広告営業を経て、フリーライターに。食・健康・医療など生と死を結ぶ一本線上にある分野に強い関心がある。紙媒体、Web媒体、書籍原稿などの執筆の他、さまざまな媒体の企画・構成の実績がある。好きな言葉は「Chase the Chance!」