飲食店ドットコムのサービス

「チーズ×自然派ワイン」でゲストを虜に。恵比寿『スブリデオ レストラーレ』の戦略に迫る

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

ワインの語り部として大勢の客に自然派ワインをすすめてきた村上香織さん

自然派ワインのストーリーを伝えることでより美味しく飲んでもらう

「うちはワインリストに掲載されていないワインのほうが圧倒的に多いんです。常連のお客様からは、『リストに載っていないワインを飲ませてください』と頼まれたり、『面白いワインがあるでしょ?』と期待されてご来店いただくお客様もいらっしゃいます。自然派ワイン好きのお客様のご予約をいただいたときは、あの方がお見えになるのなら、どんなワインを飲んでいただこうかなって考えてしまいます。自分に課題を課すことが楽しくて仕方がありません(笑)」

実際、村上さんが選んだワインを飲み、いい意味で「こんなワインを初めて飲んだ」と喜んでくれる人が多いそうだ。

ワイン担当になった2年前から、ほぼ毎日欠かさずにつけているノートがある。現在3冊目となったこのノートにはとくに名前はない。ワインに関する知らない言葉や単語、思いついたこと、銘柄ごとのストーリーをつづっている。いわば、ワインなんでもノートだ。

「ワインを扱うからには、そのワインが造られているバックボーンを知っておくべきだって思うんですよ。また、造り手のことも調べたくなりますね。調べると面白いストーリーが見えてきます」

毎日欠かさずにつけているノート

そうしたストーリーを、ワインなんでもノートに書き込んできた。たとえば、オレンジワインとも呼ばれるジョージアワインがある。素焼きの甕(かめ)「クヴェヴリ」で醸しているジョージアワインが、近年世界中で脚光を浴びている。そのジョージアワインについても村上さんは調べてきた。

「ジョージアのワイナリーは生産量が少なくて、1本1本丁寧に造っている人が多いことがわかりました。お客様にジョージアワインをすすめるときは、ワインの味や特徴だけでなく、ワイナリーのストーリーもお伝えします」

ワインが造られている背景や物語を知ることでより美味しく味わえるだけでなく、新たな感動も生まれる。

ポルチーニを使ったコンテリゾットとのペアリングには、ジョージア産の赤と白のワインをすすめてくれた

逆説的にいえば、説明なしに、ただグラスにワインを注ぐだけだったり、テーブルにボトルを置いて立ち去ってしまったら、個性的でユニークな自然派ワインは誤解されやすい。

「それでは生産者が浮かばれません。お客様と生産者の間にいる自分が、お客様から正当な評価を受けられるようなサービスをしなければならないと思っています」

初めての客にも、常連客にも、ワインにまつわるストーリーを語る。それによりそのワインが正当な評価を得られるからこそチーズ料理とのペアリングもより楽しんでもらえ、喜んでもらえるのだ。

店の入口にチーズ専用の巨大な冷蔵庫が鎮座している

自然派ワインは客と店にどんな影響を与えているのか

「料理とワインの客単価が同じ日もあります。そういう意味で、自然派ワインは売上にかなり貢献していると思います」

ランチではワインを飲まない人が一般的だ。けれど、ときに村上さんが自然派ワインのストーリーなどを伝えた上ですすめると頼んでくれる人もいる。なかにはおかわりしてくる人もいるそうだ。この店のランチの客単価は2000円前後。グラスワインは1杯1000円前後。ワインのオーダーが1杯入ると、売上が1.5倍増えることになる。また、自然派ワインは客にも様々な影響を及ぼしているようだ。

「自然派ワインが美味しいことを理解し、賛同してくださるお客様が増えてきました。自宅でも自然派ワインを飲むようになった方もいらっしゃいます。うちの料理と自然派ワインのペアリングを気に入ってくださった方が、友人を紹介していただくことも珍しくありません」

ワインの購入先を尋ねる人もいるという。

「紹介させていただくと、買いに行ってくださる方も少なくありません。ベストの飲み頃を自分で発見できたら楽しいですよ、とお伝えすると、実際にやってくださる方もいます」

恵比寿のこの店では、“ワインの語り部”村上さんの影響もあり、自然派ワインを受け入れてくれる人が増えてきたようだ。

チーズを使ったデザートとのペアリングにも自然派ワインを用意

吉田シェフも自然派ワインがもたらした「ある変化」を実感しているという。

「ワインやワイナリーに興味を持つお客様が増えてきました。私は飲めないので詳しいことはわかりませんが(笑)、ワインを介することで私が作った料理を、また違った味わい方で楽しんでいただいているような印象を受けています」

最後に、自然派ワインの仕入れと接客担当としての感想を村上さんに尋ねた。

「毎日ワクワクしています。それはもしかするとワインという生き物を扱っているからかも。自然派ワインは日々いろいろな変化があります。わからないことの連続で、毎日が勉強です。ワインにはまれてよかったなあって(笑)」

ミルクを運ぶタンクがこの店のトレードマーク

『スブリデオ レストラーレ』
住所/東京都渋谷区恵比寿4-11-9クオーレエビス
電話番号/03-6721-7847
営業時間/11:30〜L.O.13:45、14:00〜17:00(カフェ)、17:00〜L.O.21:30(金土〜L.O.22:30、日〜L.O.19:30)
定休日/月曜、第1・第3火曜
席数/16

Photographs/Nao Kagawa

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ

Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。