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一つ星『ラペ』松本一平シェフ、「コロナ禍だからこそできることに挑戦する」

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かなりボリューミーな内容になっている

生産者はもちろん、同業者とも共存共栄していきたい

ラペBOXに同梱したメニューには食材名だけでなく、生産者名なども記載してある。これまで多くのレストランが料理を客にサーブする際、食材や生産者の説明をしてきたはずだ。無論、ラペでもしていた。けれど、ラペBOXではそれができないことから、生産者名も書くことにしたのだ。「生産者と食材をより理解しやすくなった」と書いたメールを送ってくれる人もいるという。

しかし、それだけでは従来ホール担当がしてきた仕事の延長にすぎない。ラペBOXではそれをさらに進化させた。ホームページを持っている生産者の場合、QRコードを掲載したプリントも同梱したのだ。

「取り引きさせていただいている生産者の中には、生産物や加工品を直接販売されている人もいます。QRコードを付けることで、ラペBOXを買ってくれた方が生産者から直接購入してもらえるようにしました。実際申し込んだ方もいて、生産者からお礼を言われたこともあります」

なぜそこまでする必要があるのか。松本シェフは『ラペ』のフェイスブックにこう綴っている。

「自分だけ、自分の会社だけを守るだけだと意味がない。みんなが助けあって生きていかないと経済が破綻し、お客様にも来てもらえない。自分に出来ることは料理を作ること。料理を作るには食材を提供してくれる生産者が必要……」

『ラぺ』オーナーシェフの松本一平さん

コロナ禍で飲食店が営業自粛したことで食材が余っていた。それを叩いて買うこともできたし、廉価な食材を仕入れ、廉価な価格設定で売ることもできたはずだ。が、しなかった。これまで支えてもらってきた生産者から正当な価格で食材を買うことで、彼らを支援しようと考えたのだ。結果的に『ラペ』の価値を下げずに、『ラペ』の存在も守ることができたといえるだろう。

レストランを経営する友人や後輩が、ラペBOXの存在を知り、どんなオペレーションをしているのか問い合わせがあった。松本シェフは、同業者にノウハウを教えただけでなく、真似しても構わない旨を伝えた。公開したのは、同業者とも共存共栄しようという思いがあったからだ。もちろん、同業者と取り引きをしている生産者のためでもある。

ラペBOX第2弾発売を告知した4月7日、松本シェフは『ラペ』のフェイスブックに「自粛しながらいつも通りに出来ることをしよう」というタイトルでこう記している。

「全国の生産者さんもこの様な状況で大変なことになっております。レストランが自粛すれば生産者さんも大変です。野菜や食材の収穫を止めることはできません。みんなでもっともっと協力し合い、いつも通りの身近な生産者さんの食材を使い、情報も共有し、さらにお客様にも自粛しながらでもご自宅で楽しんで頂けたら嬉しいです! 自粛ストレスの解消にも繋がって欲しいです! 1日でも早く収束しますように……」

6月中は短縮営業を行うという(ラぺ提供)

スタッフの休日が増え、労働時間も減ったが給料は満額支払う

ラペBOXは当初30個限定(1個15,000円)で販売。翌週は50個(1個20,000円)になり、さらに70個(1個20,000円)に増えていった。1個2人前なので、30個だと60人分、50個だと100人分、70個だと140人分。水曜と木曜に仕込み、金曜に配送。手が空く週末と月曜、火曜の週4日を休みにした。

ラペBOXをスタートさせた4月中は、このスタンスで仕事を続けた。スタッフは6名。コロナ前の休日は月6~7日、労働時間は朝から夜まで。コロナ禍で営業自粛中の4月の休みは週4日、労働時間は9時から17時。コロナ禍で、『ラペ』は時短になりつつあった。休日が増え、労働時間が短縮になったのだから、給料を全額払う必要はなかったのかもしれない。

「でも、3か月間満額払っています。なぜならスタッフの生活を変えさせるわけにはいかないと思ったから。そのためにも、どれだけの売上を確保しなければならないのかを考えました」

ラペBOXを始めたばかりの4月の売上は目標の50%。足りない分の売上を補うために、デリバリー料理「ホロホロ鳥のフレンチコンソメしゃぶしゃぶ(デザート付き15,000円)」を考案した。

コンソメは事前に作り、冷蔵しておく。朝出勤後、肉をスライスしてパッキングする。そして松本シェフ自らが、妻の運転する車で山の手線内限定で料理をデリバリーした。けれど、週末10軒ずつしか配れず、売上にはあまり貢献できなかった。

5月からラペBOXの販売数を毎週100個(1個21,000円)に変更。100個になったことで、火曜、水曜、木曜に仕込み、金曜と土曜で50個ずつ配送。日曜と月曜を休みにした。また、ワインの販売許可を取得できたことから、売上目標の80~90%をキープできた。

「万が一の際の運転資金にと思い、日本政策金融公庫に1000万円の借り入れを申請しました。内部留保を多少持っていますが、今のところまだ手を出していません」

持続化給付金、雇用調整助成金、東京都の感染拡大防止協力金も申請済み。顧問税理士と顧問社労士がいるので、諸々相談しているという。

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。