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一つ星『ラペ』松本一平シェフ、「コロナ禍だからこそできることに挑戦する」

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顧客であるvanilla20161031さんがインスタグラムに投稿したラペBOXの1品

コロナ禍だからこそできるテスト・マーケティングに挑戦

松本シェフの実家は、和歌山市内でおでん屋『平ちゃん』を営んでいた。関西風の白醤油を用いたクリアなおでんが自慢の店で、練り物もあれば、卵や大根などの野菜のおでんもあった。まだ実家にいたとき、松本シェフもおでん屋の仕事を手伝っていた。そんな経緯もあり、『ラペ』ではこれまで3年間、年始の1週間に限り、『平ちゃん』おでんをコースで出すイベントを開催してきた。

「つまみ系の八寸からスタートし、一品ずつ薬味を変えながらお出しする懐石風のおでんです。最後に土鍋ご飯とデザートが出て13,000円。おでんとしては高いかもしれませんが、毎年満席です。常連客もフレンチが出すおでんってなんだろうと思ってくれるらしく、毎年楽しみにしてもらっています」

この味を家庭でも楽しんでもらおうと、ラペBOXでも『平ちゃん』おでんを出すことにしたのだ。

「正直言って、おでんだけで勝負するのが怖かったし、どんな反応があるのか未知数でした。そこでフレンチとおでんをひとつのBOXに詰めることにしたんです」

“毎週フレンチでは飽きられるのでは”という思いもあったことから、『平ちゃん』おでんを加えたラペBOXを5月上旬と中旬の2回販売した。「フレンチも良かったけど、おでんのほうがもっと良かった」とメールしてくれる人が多かったという。

「嬉しんですけど、ちょっと複雑(苦笑)」

じつは、『平ちゃん』おでんは、テスト・マーケティングだった。「ネット販売で『平ちゃん』おでんがどこまで通用するのか試したかった」と松本シェフは告白する。

「店では100個しか作れませんが、工場に委託すればもっと大量に生産することもできます。ネット販売の可能性に賭けてみたいと思っていました」

顧客であるvanilla20161031さんがインスタグラムにアップした『平ちゃん』おでん

『平ちゃん』おでんだけでなく、お菓子もやりたいという思いもある。おでんにスイーツ……、コロナ禍で試行錯誤を続ける中、どれかが当たれば、それを伸ばしていくつもりだ。

「SNSを有効活用し、手探りでマーケティングをしています。守るだけでなく、新しいことに挑戦することも楽しんでいます」

コロナ禍で仕方がなく弁当を作り、日銭を稼げばいいという発想は松本シェフにはない。どんな弁当であれば満足してもらえるのか。そこからどんなことができそうか、膨らみそうか。その先も見つめているのだ。

「コロナ禍で店をどのように経営しながら、美味しく食べてもらえるのかを探求しています。料理をするのが楽しいんです。楽しめずに仕事ができないのなら、レストランはやりません。自分が楽しんでこそ、お客様にも楽しんでもらえるはず。それがお客様にも伝わるのかも」

今、自分達ができる思いをBOXに詰め込んでいるのだ。

「コロナ禍だからこそできる挑戦がきっとあるはずです。むしろこれまでやったことがないチャレンジができるときなのかもしれません。『ラペ』ではお節をやったことがありません。ラペBOXの経験を活かし、お節もできるかも。転んでもただでは起きません(笑)」

第2波を睨みつつ、6月は短縮営業を続け、7月からは通常営業に

6月6日から営業を再開した。といっても金曜のディナーと、土日のランチ・ディナーだけの営業だ。平日のランチを再開しないのは「主婦はまだ外食しないだろうし、友達同士でも来ないだろう」と読んでいるから。「でも家族やカップルなら週末食べに来てくれるだろう」と予測し、週末限定で営業再開に踏み切った。これまで『ラペ』を支えてきたラペBOXはいつまで続けるつもりなのか。

「店内営業でどれだけの人が来てくれるのかわからない状況で、ラペBOXは止められません。週末外食するようになれば、ラペBOXの需要が減ってくるはずなので様子を見ます。でも、6月末で止めようと考えています」

7月からは通常営業に戻すつもりだ。だが、コロナ感染の第2波が近いうちに来るという予測もある。そのためにもラペBOXをすぐに復活できる体制を取りつつ、コロナ前の営業に戻す予定だ。ただし、「店内営業とラペBOXを同時進行するのは難しい」と言い切る。

「ラペBOXの仕込みは半端ではありません。1個2人前なので50個なら100人分。しかも店で出す料理よりもボリュームがあります。たとえばソースを皿に引くだけなら少量で十分。でも、パックに詰めるとなると少量だと見栄えが悪いので、倍近い量をパッキングしなければなりません」

50個用意するにしても料理によっては150人分仕込まなければならないものもある。ラペBOXはある程度売上が見込めるし、カード決済なので入金も早い。営業自粛中、売上に貢献していたラペBOXを今後も継続しようと思うと、店を週に数日締めなければならない。店内営業とラペBOX。2本の柱をどう両立させるべきか。そのバランスが難しいところだ。

平常時の店内。当面は20席のところ10席で営業する

アフターコロナの対応策を思案中、コンサルという新しい仕事が

ソーシャルディスタンスに配慮すると客席を減らすしかない。『ラペ』は20席。客席を半分にすれば売上も半分。それをどう補填するか。大半の料理人が、松本シェフと同じ悩みを抱えているはずだ。営業再開に際し、松本シェフはランチの価格をディナーと同じ13,000円に設定した。ところが、予約の反応が鈍かったことから、コロナ前と同じ6,000円に戻した。

「世の中が普通にまわり始めたら上げてもいいのかもしれません。でも、今はまだその時期ではないのかも」

どうすれば目標に掲げた数字にもっていけるのか。経営判断が命取りになるかもしれないし、プラスになる可能性もある。『ラペ』の場合、テスト・マーケティングの結果次第では、『平ちゃん』おでんやお菓子という新ブランドを立ち上げることができるかもしれない。それともうひとつ、新ビジネスが発生した。コンサルの仕事だ。

「デリバリー商品を監修する仕事です。ある企業からラペBOXよりももっと簡単に食べられるものを提案してほしい旨の連絡がありました。3か月契約で契約料は会社に入ってきます。新規の仕事でレストラン経営を安定させることができるかもしれません」

コロナ後、レストランは営業スタイルも営業時間も変わるはずだと松本シェフは睨んでいる。ワクチンが完成しない限り、ソーシャルディスタンスの解除はありえないとも考えている。レストランの売上だけで店を回すことができるのが一番。席数を半分にしなければならないのであれば、飲食だけでは経営は成り立たない。『ラペ』の試行錯誤は当分続きそうだ。

『La Paix』
住所/東京都中央区日本橋室町1-9-4 B1F
電話番号/03-6262-3959
営業時間/土日11:30~14:30(L.O.12:00)、金土日18:00~22:00(L.O.19:00)
定休日/月曜~木曜
席数/20席のところ10席で営業中
※7月以降、営業時間は上記に準じ、木曜定休に変更。ただし、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえ、再度営業時間などを変更する場合もある

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。