飲食店ドットコムのサービス

時短要請を「時代の変わり目」と捉える飲食店も。ポストコロナへ動き始める外食業界

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

画像素材:PIXTA

「キャンセル、キャンセル、キャンセルでした」

「最強レモンサワー」で人気の江戸川区小岩の『素揚げや』(2店舗)も時短要請に応じた。運営するD&F株式会社の代表取締役・宮崎明氏によると、今回の時短要請の影響は、8月から9月にかけての時短要請とは大きく異なるという。夏場は本館と別館、2店舗合計の売上は平年とほぼ変わらない程度であったが、11月28日からの要請を受け、売上が別館は7割、本館は5割程度に落ち込んだ。

「人々の気持ちの持ちようでしょう。8、9月はそれまでの午後8時までの要請から午後10時になったわけですし、暑さもあったのか感染者数も横ばいでしたから。お客さんも時短要請の営業も含め、生活に慣れてきたのがあったと思います」

秋には売上も伸び前年比150%を記録していたが、11月28日を境に一変したという。

「11月27 日までは大賑わいだったのが、時短要請で一気に冷え込みました。キャンセル、キャンセル、キャンセルでした」

午後10時までの営業の場合、午後9時以降の案内は基本的に出来ないため、その分の売上が減少。さらに12月17日に東京都の感染者数が821人と最高を記録すると、午後7時~8時の客も激減したとのこと。

Go Toキャンペーンの中止に至るまでエビデンスの必要性を強調されていたものが、時短要請ではエビデンスの必要性があまり叫ばれないまま決定したことに疑問や不満を感じつつも、この措置は仕方がないという思いに至っている。

「仮に時短要請がなくても、連日、感染者が700人、800人と伝えられれば『(深夜営業を)やめておこうか』となったかもしれません。社会通念からして続けるべきではないと思います。そう考えると、1日4万円もらえる分、まだ良かったと考えた方がいいのかもしれません。1日2万円なら従わずに開けた方がビジネスだけを考えればいいのかもしれませんが、1日4万円、合計100万円は大きいです」

画像素材:PIXTA

時代の変化を感じ取る経営者

時短要請は要請に過ぎず、法的拘束力はない。営業を続けて収益を上げるか、営業を午後10時で打ち切って協力金を得るかの選択であり、それは事業者に委ねられる。こうした状況に苦悩しながらも、経営者はこの事態を冷静に分析し、将来へと繋げようとする思いを持っている。

板木氏は時代の変化を感じているという。夏の時短要請の頃から、遅くまで飲もうという人が減っている。「終電が早くなったのもありますし、時代が変わっていくのをヒシヒシと感じます。そこに(店の方が)順応していくしかないのかなと思います。以前のような形に戻るのは難しく、今後の展開は『早い時間に集中して』というのがあるでしょう」という。

宮崎氏はここをビジネスチャンスと見ている。リモートワークが普及し、会社に来なくても仕事はできるということに企業も従業員も気付いたことで、働き方が変わっていくであろうと予測。今後のビジネスはまさにそうした時代の流れを見極めないといけないと考える。

「実店舗も全く違うものにシフトしていくチャンスです。これまでの都心の人が集まる所で大きな店舗というものから、職・住に隣接している場所が狙いと考えています。今まで二等立地、三等立地と考えられていたところが、今後は一等地になるのではないかと思っています」

両者に共通するのは時短要請は新型コロナウイルスの感染症拡大防止のための一施策という表面的な事象にとどまらないと考えている点である。時短要請が時代の変化を告げる鐘のようなものであるとし、そこを見据えてビジネス展開をしていく必要性があるという意識を有する。

宮崎氏は現在、フランチャイズを募集、直営店も増やしてビジネスを展開していこうと検討している。それも時代の変化によるもの。ビジネスを展開する上で必要な人的資源の確保は、飲食業界の大問題であった。コロナ禍以前、『素揚げや』で正社員を募集した際、1人を雇用するのに3か月という時間と、60万円のコストがかかった。しかし、現在は「(募集をかけると)50人、60人は当たり前のように来てもらえます。そこからいい人材をピックアップできるので、人という点については、今はビジネスチャンスであるととらえています」と話す。現在、開店のための不動産探しを行なっているという。

画像素材:PIXTA

ポストコロナへ動き始める外食業界

1日あたり4万円の協力金は小規模な事業者にとっては決して小さい金額ではない。その金銭面に加え、飲食店が果たすべき社会的責務を考えて時短要請に応じているのが両者の考えであり、おそらく時短要請に応じている多くの事業者が同じ考えを持っているのだろう。

その中で、板木氏や宮崎氏のように、時短要請を時代の変わり目と捉える事業者も出ている。時代はポストコロナへと確実に動き始めている。

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ

Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/