飲食店ドットコムのサービス

ラーメン店がホットドッグ!? 『麺屋武蔵』がコロナ禍で始めた新ビジネス

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

麺屋武蔵の矢都木二郎社長

生涯一度も勝負に負けなかった宮本武蔵。そんな剣豪にあやかり、1996年に創業した『麺屋武蔵』。都内に15店舗を展開し、年間売上17億円の企業に成長した麺屋武蔵が、かつてない最大の敵“コロナ”と対峙している。

「この勝負に勝たなければ意味がありません。宮本武蔵風にいえば、負けたら閉店」と2代目社長、矢都木二郎氏は豪語する。この1年間、コロナに勝つために何をしてきたのか。神田『麺屋武蔵 神山』で話を聞いた。

【注目記事】“最強”居酒屋『おじんじょ』のアフターコロナ。危機を乗り越えたポジティブシンキング

『麺屋武蔵 神山』の店内の様子

コロナ禍で始めた新たな挑戦

麺屋武蔵では、「一杯にして一杯にあらず」という信念を貫いてきた。「お客様に最高の場で最高の一杯を味わっていただく」ためにすべてに気を配り、最善を尽くす。ラーメンはいうに及ばず、サービス、店内環境など、同社が考える最高の“麺屋武蔵体験”を提供してきた。

ところが昨年4月、麺屋武蔵の社是を否定するかのような行動に出た。ラーメンのテイクアウトやデリバリー、つけ麺の通販に着手したのである。

「今回だけは背に腹をかえられませんでした。理念があっても沈んだら終わり」

なにがなんでも勝つ。15店舗の店長に「1円でも売上を確保する手段を考えてほしい」と伝達。つけ麺の通販を始めるにあたっては、ECサイトを立ち上げるのでなく、自社ホームページでオーダーを取る形にした。「これが思った以上に大変でした」と矢都木社長はふり返る。

毎日100件近く注文があった。入金を確認するため、社長自らが連日銀行で記帳。配送伝票をスタッフと手書きし、ラーメンを箱に詰めて配送しなければならなかった。

GW前にBASEを導入。決済や売上の受け取りがスムーズになっただけでなく、BASEはヤマト運輸と連携しているため、配送伝票を書く手間も解消された。

通販で販売中の「つけ麺3食セット」2,800円(税込)

各店舗の店長が独自にテイクアウト商品を考案

テイクアウトを始めたものの、麺が伸びやすいラーメンは持ち帰りには不向き。テイクアウトでも美味しく食べられるものを早急に商品化しなければならなかった。崖っぷちに立たされた麺屋武蔵を救ったのは、社訓に掲げてきた「自ら行動し、自ら責任を取る」精神だった。

5月、秋葉原『麺屋武蔵 武仁』の店長が角煮と野菜のサンドイッチ、そして味付け卵のサンドイッチのコンビを製品化。高級食パン『銀座に志かわ』の秋葉原店が近所にオープンしたのを知った店長が、厨房にある具材を使ったサンドイッチのテイクアウトを始めた。

『麺屋武蔵 武仁』がテイクアウト用に商品化したサンドイッチ

続けとばかりに秋葉原『麺屋武蔵 巌虎』の店長が新製品をリリース。チャーシューベーコンにサルサソースを合わせ、まぜ麺にチーズソースをかけ、トルティーヤで包んだ「メンタコス」のテイクアウトを期間限定で販売した。

さらに6月、上野『麺屋武蔵 武骨相傳』が、ストローで食べる「冷しタン麺」を期間限定発売。タピオカブームだったことから、短く切った麺を、冷やしジュレのスープと一緒にストローで食べるスタイルを考案した。

ラーメン屋がサンドイッチやタコスを売ることに抵抗はなかったのか。

「まったくありませんでした。むしろ大いにやってほしかったというのが本音です。コロナでラーメンという括りから切り離されたことで、ラーメンの食材を転用した、テイクアウトに相応しい商品が生まれました。会社としてやれることが広がり、良かったと自負しています」

宮本武蔵が著した『五輪書』に「有構無構のおしえの事(かまえありて、かまえなしの意)」という記述がある。宮本武蔵を師と仰ぐ麺屋武蔵は、常日頃からこの教訓を守ってきた。コロナ禍だからこそラーメンだけに縛られることなく、生き残る術を模索し、顧客に喜んでもらえる商品を開発したといえるだろう。

Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。