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コロナ禍の開業から半年、川口『Restaurant KAM』がオープンするまでとこれから

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畑で摘んだばかりのエンドウ豆の茎の香りを楽しむ

事務作業も畑仕事も共同で

二人でレストランを開業して半年。業務の分担はどれもほぼ共同で行い、ほとんどの業務を、どちらかだけの担当にはしていないのだという。

本岡 だいたい二人でやってるよね。どちらかだけでやってる仕事は……

田代 予約の電話かな。

本岡 そうだね。なぜ予約を僕だけにしているかというと、「どっちかが受けたはず」みたいな取りこぼしを出さないためですね。だから、いつでも予約が取れるように、携帯(『Restaurant KAM』は予約を携帯電話のみにしている)はずっと僕が持っています。予約帳はアナログで、紙と鉛筆なんですよ。必ずその場で書き留める。だから、予約帳を開けないときは、予約の電話を取らないこともあるくらいです。

田代 僕がメインでやっている主な仕事は、料理が上がってきたらペアリングを考えることと、デザートとノンアルコールペアリングのアイデア出しですね。

本岡 逆に、洗い物、ごみ捨て、簡単な買い物は二人でやってるし、経理とか事務作業もほぼ半々だよね。

田代 そうそう。畑作業やドリンク発注も共同だし。

本岡 意見が衝突することもないよね。言い争いって、これまで、この工具は要るか要らないかとか、そのくらい?(笑)

田代 これまで将がこうしようって言って、間違いだったってことがないんですよ。だから、基本的に将が言うことに反対はしないというか。将がやりたいことをやらせてあげる。僕が我慢してるとかそういうことではないですね。

テーブルは英国製のアンティーク。日本家屋に自然に溶け込んでいる

『Restaurant KAM』の営業形態として特徴的だと感じたことがいくつかあった。①店の公式サイトがない、②公式SNSを持たない、③固定電話を置かない(携帯電話のみ)、④ウェブ予約は受けない。レストランのウェブ予約サービスが増え、店の公式サイトからでもウェブ予約に直接飛べるレストランが増えたこの時代に、『Restaurant KAM』は予約を電話のみで受けるという。なぜそういう形態にしたのだろうか。

本岡 やることを増やしすぎるとダメなんです。サイトの更新作業とか、地味に時間がかかるじゃないですか。二人しかいないので、手数は減らしたい。公式サイトはなくていいよねってなりました。やるのにメリットだけでなくデメリットがあるならやらない。手段を減らした方が楽になります。Instagramも、二人のアカウントはそれぞれあるけど、店のものはないです。

田代 あと、予約を直接受ければ、注意事項とか、予約の際に口頭で伝えられるんですよね。サイトに書いていても、見てないゲストも多いんです。

本岡 アレルギー食材のこととか、その日はお祝いですかとか、予約を受けるときに小さなヒアリングができるのも大きいですね。安くないお金を投じるのだから、こんなはずじゃなかったという人、ミスマッチを減らしたい。

2021年、コロナ禍のさなかに誕生した『Restaurant KAM』。この時期に開業した店は、たとえ明確に意識していなかったとしても、緊急事態宣言や時短営業、またその解除などの通達が突然来るのが前提になっている。この状況は今後、レストランのあり方そのものを善かれ悪しかれ変えていくかもしれない。

本岡 銀行での借入は難しかったですね。「いま飲食店やっていけるの?」って言われて。よく開業できたなと思います。

田代 今、ゲスト数は一度に最大2組、合計5名までにしています。5名まででも3組だと忙しすぎてダメでした。一斉スタートではないので。4名までが通常モード、このキャパシティが今のスタンダードですね。

本岡 大きい店ではないので、間口を広げなくて良いんですよ。リピート頻度や損益分岐点を見ながら価格を設定する。

田代 今は新規のお客様は半分以下くらいですね。でも初めての人に来てほしくないわけではもちろんなくて、機会があればぜひうちの料理を体験してほしいです。

本岡 そうだよね。新しいゲストに来てほしくないなら紹介制にするわけだし。最近は近所の人が増えたよね。

田代 コロナで遠くへ行けない人たちが来てくれるみたいで。東川口のこの近辺でフランス料理店は少ないらしくて、そういう人たちが、Googleマップで調べて来てくれている。そういう人たちにきちんと向き合っていけば、生き残っていけると思っています。

幼なじみの二人

相手が「いてくれること」にありがたさを感じる

二人で店を続けていくにあたって、大切にしていることについて聞いた。

本岡 大切にしているのは、まず、どれだけ仲が良くても相手が他人であるのを忘れないことと、相手もやってくれていると思うことです。もしかしたら自分には見えてないところで仕事をしてくれているかもしれない。だから、やってくれることに価値を感じるのではなく、いてくれることそのものに価値を感じるということですね。

田代 えー。そこまで深く考えていたの(笑)

本岡 まあね(笑)。あと、決めごとを作らないことかな。「こうしないといけない」は作らない。決めないこと、柔軟でいることが理想。難しいけど。

田代 僕の次の展望としては、シェフ本岡将をもっとみんなに知ってほしいんですよ。見てもらうきっかけを作りたいというか。だから、Instagramでの紹介方法も変わってきました。料理のこととかは、将自身でなく、横から見ている自分が発信してきたいと思っています。

二人という小さなユニットで営業する『Restaurant KAM』。二人のお互いの距離感、またゲストとの新たな距離感から、今後また新しいものが生まれていくのだろう。

『Restaurant KAM(レストラン カム)』
所在地/埼玉県川口市戸塚3-1-13
電話番号/080-4623-0829
席数/5

本岡将(もとおか・まさし)
1993年、兵庫生まれ。調理師専門学校卒業後、南仏やパリ、スペイン・バスク地方等で修業。静岡県富士宮市にあった『レストランビオス』のシェフに23歳で就任。栃木県那須郡『レストランμ』の統括シェフを経て、2021年4月『Restaurant KAM』を開店。

田代圭佑(たしろ・けいすけ)
1994年、兵庫生まれ。幼馴染みだった本岡さんと大学在学時に再会。大学卒業後に大手旅行代理店や「ぐるなび」勤務を経て、東京都三鷹市『Restaurant Maruta』にサービス・ソムリエとして勤務。2021年4月『Restaurant KAM』を開店。

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。