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アニサキスによる食中毒の報告が急増。飲食店での予防策と、発生時営業停止の可能性は?

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画像素材:PIXTA

全国各地でアニサキスによる食中毒の発生事例が報告されている。厚生労働省によれば、2023年も4月5日までに報告があった事例は60件を超えた。また、2022年のアニサキスによる食中毒の患者数は578人で、2021年の354人に比べると実に1.6倍。非常に多く発生したと言われる2018年の478人を上回り、ここ5年間で最多となった。

厚生労働省の事業者向けリーフレット「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」によると、アニサキスによる食中毒のうち、38%が飲食店で発生しているという。家庭での発生率の約2倍強だ。飲食店や販売店などでアニサキスによる食中毒が出てしまった場合、営業停止になる可能性もある。そこで今回は、飲食店におけるアニサキスを原因とした食中毒の予防法と、万が一店舗で発生した場合の対応について紹介する。

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生鮮魚介類に寄生する線虫、アニサキス

アニサキスは線虫の一種。サバ、アジ、サンマ、ニシン、カツオ、イワシ、サケ、タラ、マス、イカなど多様な魚介類の腹腔内(内臓)に寄生する。寄生している魚介が死ぬと筋肉に移動することが知られている。

アニサキスが寄生した魚介類を生食すると、胃や腸壁に突き刺さり、数時間後に激しいみぞおちの傷みや吐き気などの症状がでることがある。10数時間経ってから下腹部に痛みが起きることも。幼虫1隻(寄生虫の単位)でも食中毒は発症するという。

生食の食習慣と関連しているため、4,5月はカツオ、9,10月はサンマと、旬とともに1年を通して発生する。回遊性の魚類への寄生が多く、国内の養殖魚では検出事例はないようだ。

飲食店におけるアニサキスの予防法や注意点

刺身、寿司、海鮮丼の他、カルパッチョなどでも発生事例がある。厚生労働省では、飲食店などの事業者は、感染予防のために次の点に注意するよう呼び掛けている。

・新鮮な魚を選び、内臓が付いた魚を仕入れた場合は、速やかに内臓を取り除く
・魚の内臓を生で提供しない
・魚介が生きているうちから筋肉に寄生している場合もあるため、目視で確認し除去する
・冷凍・加熱が有効(冷凍の場合はマイナス20℃で24時間以上、加熱の場合は70℃以上、または60℃で1分)
・一般的な料理で使う食酢での処理や塩漬け、しょうゆやワサビでは幼虫は死滅しない

アニサキスはマイナス20℃で24時間以上冷凍すると死滅する。魚介を冷凍して輸送している頃は輸送自体が感染予防になっていたが、魚を低活性化するなどして高い鮮度を保って輸送する技術が発達した現在は、アニサキスが死滅していない状態で店舗に届きやすい。つまり、店舗内でのていねいな確認や処理が必要不可欠なのだ。

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もし飲食店でアニサキスによる食中毒が発生した場合、営業停止になる可能性も

保健所は食中毒発生の連絡を受けると、発生源と疑われる施設への立入調査を行う。原因施設は、食品衛生法第55条に基づき、被害拡大防止対策、再発防止対策が完了するために「必要な期間・範囲」で営業停止の行政処分を受けることもある。

具体的な事例と、営業停止の期間は以下の通り。

・2023年2月13日に埼玉県の販売店で発生した事例…2月15日の1日間
・2023年3月10日に埼玉県内の魚介販売店で発生した事例…3月13日から3月14日の2日間
・2023年3月15日に宮城県の鮮魚店で発生した事例…3月17日の1日間
・2023年4月4日に福井県内の寿司店で発生した事例…4月7日の1日間

ちなみに厚生労働省では、「必要な期間・範囲」を「従業員教育等の再発防止措置に必要な期間」、「範囲は対象品目を鮮魚介類(冷凍品を除く。)に限定する」としている。また、食品衛生法第63条により、食品衛生法違反者等の情報は公表される場合もある。

2018年にアニサキス食中毒が非常に多く発生した際の調査では、例年よりも海水温が高い状況が続いたことが原因とされていた。日本近海では海面水温が高い状態が続くことも多く、影響を受ける魚介は少なくないと考えられる。

また今年に入り、これまで確認されていなかったマグロなどでアニサキスの寄生が確認されている。原因は特定されていないが、今までよりもリスクが高まっていると考えるべきだろう。飲食店事業者はこうした危険性を知り、予防策の実施を徹底していきたい。

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岩﨑美帆

ライター: 岩﨑美帆

1982年生まれ。NPO活動に没頭した 大学時代、塾講師、広告営業を経て、フリーライターに。食・健康・医療など生と死を結ぶ一本線上にある分野に強い関心がある。紙媒体、Web媒体、書籍原稿などの執筆の他、さまざまな媒体の企画・構成の実績がある。好きな言葉は「Chase the Chance!」