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「ミシュランガイド東京2026」会場レポート。『明寂』の三つ星昇格が示すグルメシーンの未来

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「おいしい料理だけでなく、将来のため良い環境をつくりたい」と語る『トワヴィサージュ』の國長亮平氏

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東京が牽引する食のサステナビリティの新時代

45の国と地域で展開されるミシュランガイドにおいて、東京は星付き店の数で世界一を誇るだけでなく、持続可能な食の実践を示すグリーンスターでもナンバーワンである。昨年は12軒だった掲載店に、今年はフランス料理『トワヴィサージュ/TROIS VISAGES』が加わり、計13軒とさらなる進展を見せた。

『トワヴィサージュ』が評価されたポイントは、自然な農法で野菜やハーブを栽培し、端材まで堆肥化して自家菜園で循環させていること。産卵を終えた鶏や廃棄されるホエイといった、「食べられるのに出荷できない食材」の活用も注目を集めた。

こうした取り組みは単なるトレンドではなく、食材の価値を高め、環境負荷を低減する本質的なアプローチだ。そもそも季節の恵みを最大限に活かす精神が根付いている日本。エネルギー分野などでは環境後進国として揶揄されることもあるが、食のサステナビリティにおいては長きに渡る文化の蓄積があり、持続可能なガストロノミーの分野でも世界を牽引していくだろう。

日本茶や居酒屋が切り開く新たな食の可能性

インスペクター(覆面調査員)の推薦店であるセレクテッドレストランで注目なのが、昨年新設されたばかりの「クリエイティブ」カテゴリー。新たに4軒が加わったなかでも、和菓子と日本茶のペアリングコースを提供する『九九九/kukuku』、煎茶やほうじ茶、和紅茶を発酵スイーツと組み合わせる『ヴェール/VERT』が象徴的だ。

健康志向の高まりと日本食ブームを背景に、世界的な人気も急上昇中の日本茶。農林水産省が輸出重点品目に位置づけ、輸出額は近年大きく増加している。美食の観点からも、日本茶の新しい魅力を開拓するシェフが評価を集めていきそうだ。

価格以上の満足感が得られるとされるビブグルマンの「居酒屋」カテゴリーでは、本媒体にも登場した『食堂わた』が新たに選出。昨年度から掲載中の大岡山『和食や 太いち』と人形町『ヤマト』に加わり、計3軒の居酒屋が掲載されることになった。

星付きの和食店で研鑽を積んだ実力者ながら、日常に寄り添う居酒屋料理を振る舞う『食堂わた』。2024年9月、28歳の若さで独立した櫻井航氏は、過去のインタビューで料理人育成や店舗拡大などの展望も語っており、今後も居酒屋業界の新風として大きな役割を果たしそうだ。

多国籍な食文化が加速する東京のダイナミズム

日本茶や居酒屋料理などの再評価が進む一方、多彩な国籍の料理も東京でレベルアップを続けている。例えば2025年7月オープンしたばかりの渋谷『ナイトマーケット/Night Market』は、日本で初めて東南アジア料理として選出され、ビブグルマンを獲得。タイ料理の神保町『KHAO/カオ』、オーストリア料理の『エーヴィック/EWIG』が一つ星を獲得するなど、東京における多様な食文化のさらなる発展を体現した。

代表者としてスピーチを行う『KHAO/カオ』の石山公一氏と穂積依里氏

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二つ星評価を受けたのは昨年同様26軒で、一つ星からの昇格は3軒。寿司『西麻布 鮨 真/Nishiazabu Sushi Shin』は日々の鍛錬による技術力の高さ、日本料理『炎水/Ensui』は炭火の炎と出汁の水の調和、日本料理『伯雲/Hakuun』は洗練された香りと温度の妙などが評価のポイントとして挙げられた。

ちなみに二つ星の内訳は日本料理12軒、フランス料理6軒、寿司3軒、天ぷら2軒、イノベーティブ2軒、イタリア料理1軒。昨年から寿司が1軒、日本料理が2軒増加するなど、やはり伝統的なカテゴリーが強い。ビブグルマンや一つ星では、国際色が豊かになっていることから、来年度以降は新しいカテゴリーからの二つ星昇格にも期待が高まる。

二つ星評価へ昇格した代表者たちがサムズアップで喜びを表す

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■二つ星評価(遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理)を受けた26店(★★)
『神宮前 樋口』(日本料理・渋谷区)
『傳』(日本料理・渋谷区)

『天ぷら 元吉』(天ぷら・渋谷区)

『虎白』(日本料理・新宿区)

『オマージュ』(フランス料理・台東区)

『アサヒナガストロノーム』(フランス料理・中央区)

『エスキス』(フランス料理・中央区)

『銀座 小十』(日本料理・中央区)

『銀座 しのはら』(日本料理・中央区)

『銀座 福樹』(日本料理・中央区)

『久丹』(日本料理・中央区)

『鮨 かねさか』(寿司・中央区)

『てんぷら 近藤』(天ぷら・中央区)

『紀尾井町 福田家』(日本料理・千代田区)

『マス』(イノベーティブ・千代田区)

『赤坂 菊乃井』(日本料理・港区)

『クローニー』(フランス料理・港区)

『すきやばし次郎 六本木店』(寿司・港区)

『晴山』(日本料理・港区)

『ナリサワ』(イノベーティブ・港区)

『西麻布 鮨 真』(寿司・港区)

『伯雲』(日本料理・港区)

『プリズマ』(イタリア料理・港区)

『フロリレージュ』(フランス料理・港区)

『リューズ』(フランス料理・港区)

『炎水』(日本料理・目黒区)

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。