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スシロー、吉野家への「迷惑行為」に断固たる措置の意義。外食テロの抑止力なるか

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写真はイメージ。画像素材:PIXTA

回転寿司大手チェーンの『スシロー』で少年による迷惑行為を映した動画が拡散され、批判が巻き起こった事件では、運営する株式会社あきんどスシローの毅然とした対応にネットを中心に称賛の声が上がっている。同様の事案に対しても企業が厳しい態度をとることが目立つ一方で、識者の中には過度な対応を諫める声も出ている。難しい対応を迫られる中、飲食企業としてのとるべき道を検討した。

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スシロー事件への批判と識者の声のギャップ

事件は、岐阜県内の高校生とされる少年が今年1月頃、スシローの店内で唾液を指につけて回っている寿司を触る、湯呑みを舐めてから戻すなどの行為を動画に収め、公開したもの(すでに削除)。この様子がネットで大きな批判を集め、それでもスシロー側は責任追及の手は緩めず、1月31日に警察に被害届を提出。両親とともに訪れた少年の謝罪を受けても態度は変えず、引き続き刑事、民事の両面から厳正に対処するという文書を発表した。

これとは別に吉野家でも同様の事件が発生。共用の紅生姜を直接、箸で食べるなどした迷惑行為の動画が拡散された。吉野家は警察に被害届を提出予定で、刑事、民事の両面で厳正に対処するとした(以下、2023年吉野家事件)、共同通信の記事が2月7日に配信されている。

企業側の毅然とした態度に対し、識者やメディアの中には寛大な措置を望む声も出ている。元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏は2月1日、自身のツイッターで「もー ゲンコツ3発と皿磨き1週間くらいで許してあげなよー めんどくさい世の中だなー 相手、子供だろ」とツイート。

お笑い芸人の村本大輔氏(ウーマンラッシュアワー)は2月6日に「醤油差しよりも大切なのはこの子の未来。この子のお母さんや家族の心」「…いま過ちを犯した子供には容赦なく袋叩き。彼がより酷い方向にいかないことを、彼が今後、補って余りあるぐらいの親孝行ができる人になることを祈る」などとツイートした。

相手が子供とはいえ厳正に対処すべきか、子供の将来を考えて教育的指導にとどめて厳しく責任を問わないことがいいのか、判断に迷う人も少なくないのかもしれない。

画像素材:PIXTA

4年前の吉野家での事件

2019年に吉野家で似たような迷惑行為の動画がインスタグラムに投稿される事件があったことを覚えているだろうか。同年5月、20代前半ぐらいに見える男性(当時のプロフィールでは都内の私大に在籍)が牛丼の上の紅生姜の多くを箸でテーブルの上にはじき飛ばし、その後、共用の紅生姜をたっぷりと掴んで丼の中に入れ、再度、箸ではじき出し、それに笑い声が起き動画が終わるというものである(以下、2019年吉野家事件)。

この見るだけで不快になる行為に対し、当時の吉野家は告訴や訴訟提起の考えがないことを明らかにし、結果的に男性はアカウントを消して“逃亡”。その経緯は、Foodist Mediaでも報じた(吉野家「紅ショウガまき散らし」動画に怒りの声。「即時退店」「店側が注意しないと」)。

4年前は動かなかった吉野家が、今回は一転、スシローと歩みを合わせるかのように刑事、民事の双方で責任追及の姿勢を示しているのはなぜか。

スシローの事件も2023年吉野家事件も器物損壊罪(刑法261条)、威力業務妨害罪(同234条)が成立することが考えられる。前者は3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料(1000円以上1万円未満)で、後者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金である。

一方、2019年吉野家事件は注文した牛丼の中の紅生姜、あるいは共用の入れ物から自分の丼に入れた紅生姜を撒き散らす行為にすぎず、上記の犯罪の成立は無理筋とは言わないまでも簡単ではない。成立するとして軽犯罪法1条31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」程度。その場合の罰則は拘留または科料である。

もちろん、この3つの事件で実行者の行為は不法行為(民法709条)であるのは疑いなく、損害賠償請求の対象となる。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/