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坪月商57万円を誇る渋谷『CHOWCHOW』。ナチュラルワインで心をつかむ、たった一つの条件

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L字カウンターは9〜10席。調理スタッフと会話が楽しめるのは、オープンキッチンならでは(写真提供:CHOWCHOW)

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目指したのは「圧を感じさせない」店

明るめの空間に肩肘張った空気は流れていない。焼き立ての自家製パンがカウンター上でカットされ、グリルで肉が焼ける香ばしい匂いが店内に満ちる。BGMはジャズからダンスミュージックへ変わり、自然と「アガる」気分が演出されていた。敷居は決して高くはないが、日常で味わえない料理や雰囲気がしっかり楽しめる。

「カッチリした店ではなく、気軽に行けるカジュアルさを目指しました。それでいながら、ちゃんと手をかけた料理や個人で買えないようなワインが楽しめる。細かいことを気にかけず、サクサクと美味しいワインを飲んでほしい」(荒井料理長)

20数種の料理が並ぶ黒板メニュー。売り切れた品に「SOLD」のテープが貼られていく。一人客用にハーフポーションで対応可能な皿も用意

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メニュー表は作らず、すぐに変更ができる黒板3枚だけを置いている。

「冷前菜、温前菜、パスタ、メインの4皿をお二人でシェアするイメージです。余裕があれば、デザートやチーズを召し上がってもらえたら。『この皿でこの値段だと、自分ならちょっと高く感じるな』と思えば、ボリュームを増やしたり、食材の質を上げたりして調整します」(荒井料理長)

「タコとラディッキオ、スペルト小麦のサラダ」1,800円。トングでワイワイ取り分けるスタイルも楽しい。自家製パンを添えて

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オープン当初からの定番メニューは「牛ハツのカルパッチョ」。ゲストから「この皿に合うワインは?」と聞かれたら、山田店長はどう答えるか。

「ビールが一番合いますよ、と言うかもしれません(注:『CHOWCHOW』はクラフトビールも置いている)。その日の肉料理が4種類あったら、それぞれに『これがいい』という赤ワインのおすすめはもちろんあります。聞かれたらご提案はしますが、その組み合わせにこだわる必要は全然ないです。食べたいものを食べて、飲みたいものを飲んでいただきたい」

この点には、荒井料理長もこだわる。

「本来は自由じゃないですか、食べたり飲んだりすることって。ペアリングには『本当にそうなの?』みたいな疑問がいつもあるんですよ。ナチュラルワインは許容範囲が広いから、合わない料理はないと思う」

山田店長は、実際の接客シーンで「その日の天候、お客さんの顔や気分、食べたり飲んだりした流れ、話した内容などで次の1杯を薦めたい」と言う。ペアリングの「答え」があるにせよ「その瞬間、お客さんが飲んで美味しいと感じるワインを選ぶのが正解」と考える。

開店以来、バージョンアップを重ねる名物「牛ハツのカルパッチョ」1,800円。現在は山わさびと魚醤の風味で提供中(写真提供:CHOWCHOW)

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原体験はナチュラルワインと出合った感動

『CHOWCHOW』のゲストの中心ボリュームである20代後半から30代は、荒井料理長と山田店長が紆余曲折の末、ナチュラルワインにたどり着いた年齢と重なる。

イタリアンレストランで働いていた荒井料理長は20代の頃、ワインそのものが苦手だった。

「単純に飲みづらいし、体へ入っていかない。まるで興味を持てませんでした。でも、ゆくゆく自分の店をやるにはワインの勉強が避けられないと思い、ワインバーで働いたんです。そのうち『素直に美味しいと思えるワインもあるんだな』とナチュラルワインへ流れていきました。それまで飲んだワインとまるで違い、それぞれ個性を感じるのが面白かった」(荒井料理長)

定番メニューから人気の一品「黒トリュフと卵黄のカチョエペペ」3,800円(写真提供:CHOWCHOW)

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ナチュラルワインが自由に扱える環境を探して転職。その店にある日、ひと回り以上も下の世代である山田さんが訪ねてきた。

「学生時代に飲食でバイトした後、社会人になってからは営業マンやカメラマンをしていました。そのうち飲食業への興味が復活して銀座のイタリアンへ。サービス職を選んだものの、何を強みにすべきか迷っていました。そんなとき、ナチュラルワインに出合い、その美味しさに感動して転職を決意。荒井シェフのお店へ行った際にワインの絶妙なセレクトにうなり、その場で面接を申し込みました」(山田店長)

揚げ物は小型の電気フライヤーで調理。「サワラのカツレツ」2,800円

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その後、二人でカレー店を立ち上げた後、4年前の『CHOWCHOW』オープンに至った。現在、山田店長はワインの仕入れを一手に任されている。

「僕たちはフランスワインが好きだから、扱う数は多いです。ただイタリアにも好きな造り手のワインがあるし、最近はオーストリアやドイツのワインもめちゃくちゃ美味しい。試飲会では、お客さんの顔が浮かびます。『この人にこれを出してあげたいな』って。基本は味で選びますが、好きな造り手のワインは積極的に買います。年に一度しか収入がない生産者さんを応援する意味を込めてです」

日本のワインも仕入れている。試飲会や酒屋経由で紹介された後、畑の手伝いなどを経て取り引きが始まることもあるという。ナチュラルワインでつながるコミュニティがあるのも『CHOWCHOW』の魅力だ。

年齢差14歳のタッグ。「そんなに離れてました?」と山田店長がおどける

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神吉弘邦

ライター: 神吉弘邦

経済誌『Forbes JAPAN』、デザイン誌『AXIS』、建築誌『商店建築』、カルチャー誌『BRUTUS』などに寄稿するフリーランス編集者。コロナ禍で飲食店のありがたさに気づき、料理の奥深さにも開眼。メディア取材や企業コンサルティングのかたわら、現在「あて巻き」発祥の寿司居酒屋でも修行中。実家は仕出し屋。