三軒茶屋で坪月商45万円『アンビリカル』。多様性を受け入れる“ストリートフレンチ”魂
付かず離れず押し付けず。メッセージだけをそっと散りばめる絶妙な“さじ加減”
だが、そのバランスを突き詰めてきた結果こそ、『umbilical』が他店と一線を画す存在となった最大の要因といっていいだろう。
たとえばドリンクは、常時10種類ほどそろえるグラスワインと、数ページに及ぶ豊富なボトルリストでナチュラルワインを確かな主役に打ち出す傍ら、レモンサワーやハイボールなども並べる。「もしワインが飲めない人がいるグループ客でも、店側が少し歩み寄ることでこの場を共有してもらえるのなら、その方がいい」と考えるからだ。ただし、ワインリストには味の特徴や価格を明確に提示。ワインに馴染みのないお客でもオーダーしやすい環境をさりげなくつくることで、あえて言葉で勧めなくても8〜9割はワインのオーダーにつながっているという。
料理も同じだ。味の想像ができないような奇をてらったものではなく、「多くの人が直感的に『うまい!』と感じられる、わかりやすい料理」が小野氏の軸。一方で、要望があればポーションの調整やデザートプレート、食材・調理法のアレンジなど、個別のオーダーにもできる限り対応。その中にまた、岩手の豊かな食材や自身が美味しいと思う要素を散りばめる。そして改めて、お客の反応から仕立てやトッピング、価格などを再考するという繰り返しだ。
「お酒も料理も楽しみ方も、こちら側から 『こうしてほしい』という気持ちを押し付けることはしません。というのも、僕らの考えが、すべて正解ではないと思っているからです。その代わり、お客様のちょっとした言葉尻や目線・行動から、何を求めているのか、どうすれば気持ちよく帰ってもらえるかを感じ取ることに意識をおいています」(小野氏)
二人はこの日、「選択の自由はお客様にある」と繰り返した。
定番メニューやスペシャリテのファンのためには、オープン当初からのアイコンであるマカロンのお通しと、名物『本日の鮮魚のブイヤベース』をベストに仕上げて迎えつつ、新しいメニューを求めて来るお客のためにも、季節感あふれるさまざまなテイストの皿をラインナップ。「やっぱり、全方位対応です(笑)」と二人して笑うが、店も自分たちも歳を重ねる中で、届けたいと思うものをうまく組み込みながら、お客が自由に過ごせる店でありたいと語った。
【注目記事】わずか14坪で月商600万円を達成。『ビストロカリテプリ』の「コスパ戦略」をひも解く
目指すは、地元客の「やっぱりいい店」
「付かず離れず、多種多様な人に寄り添う」。店の随所に、さりげなくかつ細やかにそんなスタンスが垣間見えるからこそ、お客は実に心地いいと感じ、さまざまなシーンでここに訪れるのだろう。個別の要望や多様なニーズに応えることは、一見すると大きなパワーを要するようにも思えるが、次の来店や客の輪の広がりにつながるのであれば惜しくないと二人は言い切った。
「二人共営業職上がりなので、お客様の意向を汲み取って応えるのが得意なのかもしれません(笑)。もちろん無秩序になってよいというわけではなく、提案の仕方次第だと思うんですよね。『特別に』と、ハーフポーションを二名に提供できればフルポーションになる。そうすれば、お客様も僕らもハッピーじゃないですか」(髙橋氏)
今後は、店舗展開や後身の育成にも力を入れつつ、常に、地場のお客に「やっぱりいい店だね」といわれるような店を目指したいと語った二人。「umbilical=へその緒」の先につながる、街、お客、そして次世代の担い手は、まだまだ広がりそうだ。
『umbilical』
住所/東京都世田谷区三軒茶屋2-15-3
電話番号/03-3413-3478
営業時間/平日18:00〜24:00、土・祝17:00〜24:00
定休日/日曜+不定休
席数/カウンター3席、テーブル18席
坪数/12.5坪
