神田『空腹鶏』、業態転換で月商800万円に。繁盛の裏にはタトゥーあり!?【連載:居酒屋の輪】
客単価25,000円のステーキ業態『T』でも大成功
『空腹鶏』の業態転換と同じ年、2022年7月19日に中目黒でオープンした『T』もまた、タトゥーの存在が大きなきっかけを生んだ。
中村さんが考えていた「全身タトゥーだらけのスタッフがもてなす高級レストラン」との構想に大きな関心を寄せたのが、予約1年待ちの超人気店『U.KAI(ユーカイ)』の服部融快シェフ。肉の魔術師とも呼ばれるシェフの協力により、まだどこも提供していない近江牛のTボーンを、生産者から直接仕入れる契約まで漕ぎ着けたのだ。構想から開業まで2年の歳月がかかったという。
近江牛と言えば、松阪牛、神戸牛と並ぶ日本三大和牛のひとつ。なかでも最高級のサーロインとヒレ肉をつけたまま、脊椎骨ごとカットしたのがTボーンと呼ばれる部位である。400年以上を誇る近江牛の歴史でもはじめての試みであり、世界でも唯一無二の「近江牛Tボーンステーキ・レストラン」が誕生することとなった。
「料理長から『Tボーンステーキ、TOKYO、TATTOO、3つの頭文字に共通する『T』という店名はどうか』と提案があり、非常に気に入りました。店舗の内装工事中、さっそく後頭部にタトゥーを入れたんですよ(笑)。とても痛い思いをしたのですが、スタッフに披露したら皆で大爆笑してくれて。こういう好きなことと仕事が両立できるのって本当にラッキーだなと痛感しましたよ。ただ、開業してから1年近く集客がうまくいかず……実はかなり後悔していたんです」
食材の原価が高額なこともあり、しばらく赤字続きだったという『T』。インバウンド向けに制作したプロモーション動画が100万回以上も再生されたことを契機に、世界各地から予約が殺到することになる。
ロンドンに拠点を置くUpper Cut Media Houseが世界最高のステーキレストランを選出する「The World's 101 Best Steak Restaurants 2024」では国内5位にランクイン。日本の美食家からの注目も集めるようにもなり、食べログでは星3.55、Google Mapsの口コミでは星4.9、Instagramフォロワーも1万人を超える勢いで増え続けている。
月商400万円から売上は倍増し、繁忙期には月商1,800万円を達成するまでに。現在も3か月先まで予約が半分以上も埋まっている状態が続く、都内有数の人気ステーキレストランとなった。
次なる出店は大阪の大黒町、よりクローズドな会員だけしか利用できない『T』の姉妹店を計画中という中村さん。その見事な経営手腕を知るほどに「全身タトゥーだらけの経営者」といった当初の印象が変化した方もいるだろう。
最後に、タトゥーを取り巻く日本の現状については、どうように考えているのか、率直に質問をぶつけてみた。
「タトゥーのため温泉やプールに入れないことは全然問題ではありません。タトゥーにより『威圧されている』と感じてしまう方がいらっしゃいますから。当然理解した上で、それを背負ってタトゥーを入れている訳です。僕の考えではタトゥーというのは“マイノリティーを着るための”ファッションでもあると思っています。マイノリティーだからこそ、他では真似できない特別なお店が出せるんですよ」
タトゥーというマイノリティーを武器に、マイナスを常にプラスに変え続けてきた中村さんの挑戦は続く。
『空腹鶏』
住所/東京都千代田区鍛冶町1-5-1 今本ビル1F
電話番号/03-3258-3040
営業時間/17:00〜23:30
定休日/日曜
席数/60
『T』
住所/東京都目黒区上目黒2-37-12 コンフォート中目黒1F
電話番号/03-6303-0849
営業時間/1部17:30~、2部20:30~(完全予約制)
定休日/月曜
席数/16
