「マンダリン オリエンタル 東京」ダニエレ・カーソンさんの“人との繋がり”から生まれる創造力
総料理長として超個性派シェフたちを率いる
さて、いちピッツァイオーロとして今も『ピッツァバー on 38th』に立つこともあるダニエレさんだが、一方で総料理長としての職務もある。“食の殿堂”と呼ばれ、レストランへの期待が日本一もしかしたらアジア一高い5つ星ホテルの総料理長。しかも“食の殿堂”を構成するメンバーといえば、アートと料理を融合して食べ手を幻想的な世界へと誘う『タパス モラキュラーバー』を率いる繊細なアーティスト気質の牛窪健人さんや、香港人が「香港よりおいしい」と賞賛する広東料理『センス』を率い、香港&広東料理マニアの中間利幸さんなど、筆者が知るだけでも超個性派、街のオーナーシェフとしてもファンを集めそうな、いい意味でやんちゃな顔ぶれだ。一般的にホテルの料理に求められるとされる、老若男女・人種国籍などを問わず“どなたにも好まれる”料理とは明らかに一線を画す。
「ははは(笑)。そんな風にそれぞれのシェフの個性がお客様に伝わっているとしたら光栄です。各レストランを指揮する料理長の多様性は、むしろ“食の殿堂”として強みになるのではないでしょうか。彼らは一人ひとり、プロフェッショナルとしての意識が高い素晴らしい料理人ですので、彼らを信頼してクリエーションはほぼ任せています。彼らは『マンダリン オリエンタル 東京』の世界観をよく理解して、自身の表現と融合していますから、シフミさんが心配するほど苦労はしていないですよ(笑)」
それでも季節ごとに発表される新メニューの準備段階から、すべての料理を他人任せにせず自身で試食する。ときにはアドバイスをしたり変更を求めたりすることもある。チームのコミュニケーションを円滑にするために、日ごろからさまざまな体験を共有しているそうだ。
「素晴らしい生産者や職人に出会ったとき、感動する料理を味わったとき、この体験をシェアしたいと真っ先に顔が思い浮かぶのはチームのシェフたちです。ときにはホームパーティをしたり、一緒に外食を楽しんだりしています。シェフたちはそういう場からインスピレーションを得て、それを料理に還元してくれています」
また「マンダリン オリエンタル 東京」には「第10回全日本最優秀ソムリエコンクール」で優勝した日本一のソムリエ、野坂昭彦さん率いるソムリエチームがいる。彼らもまた、ダニエレさんにとって“食の殿堂”を支える大切な仲間たちだ。
7月1日には、野坂さんが中心となって開発したプライベートブランドの赤ワイン「Mandarin Oriental, Tokyo 2020 Hayabusa」をリリースした。山梨・勝沼の「MGVs(マグヴィス)ワイナリー」とのコラボで生まれたこのワインは、日本固有種の黒ぶどう「マスカット・ベーリーA」を100%使った、日本人による・日本のぶどうの・日本のワイン。世界の「マンダリン オリエンタル」グループの中で、このワインを味わえるのは日本だけだ。こんなことをするラグジュアリーホテルって、やっぱり「マンダリン オリエンタル 東京」しかないんじゃないだろうか。
常に新しいことに取り組む挑戦者は、その成功を追随されることがつきものだ。しかしダニエレさんはそれさえも「ありがたい」と微笑む。
「ピッツァがガストロノミーになり得る料理であることが、多くの人に伝わるのは嬉しいことです。それに後続の方たちに見えているのは、私たちの過去でしかありませんが、私たちはチーム一丸となり、すでに未来のプロジェクトを進めています。たとえば昨年はギリシャの『マンダリン オリエンタル コスタナヴァリノ』に『ピッツァ オマカセ』スタイルのレストランをオープンしました」
この夏から秋にかけて、アジア各国の著名なシェフとのコラボレーションもいくつか予定されている。新しい食材、新しい調理法、そして新しい人たちとの出会いにより、ダニエレさんのクリエイティビティはこれからどこまで広がっていくのだろう。その進化をこれからもずっと見つめ続けていたいと心から願う。
「楽しみにしてくださいね。私自身も自分とチームの未来が楽しみです」
Daniele Cason(ダニエレ・カーソン)
1979年イタリア・ローマ生まれ。ホテル学校を卒業後ローマの5つ星ホテルで料理人としてのキャリアをスタート。数年で副料理長に。ローマの名店『ラ・ペルゴラ』でイタリア料理界の巨匠ハインツ・ベックさんに師事し、同店のミシュラン三つ星昇格に貢献する。ロンドンのフレンチ、ローマでミシュランの星を得た自身のイタリアン『イル ティーノ』を経て、よりグローバルな舞台を求めてエジプト・カイロ、タイ・バンコクの「フォーシーズンズ ホテル」で活躍。2013年「マンダリン オリエンタル 東京」の副総料理長として来日。イタリアンダイニング『ケシキ』の料理長を務めつつ『ピッツァバー on 38th』の開業(2014年)に尽力する。2016年総料理長に。以降、全料飲施設のシェフチームをけん引。各々の個性を引き出しクオリティを磨きつつ「マンダリン オリエンタル 東京」を“美食の殿堂”として総合力においてもその名声を高め続けている。
