決定的な2つの短所を解消して売上倍増。『立呑み 浅草 洒落者』の合理的選択
まだ太陽が出ている10月上旬の午後4時、『立呑み 浅草 洒落者(しゃれもん)』には開店と同時に次々と客が訪れる。大阪の立ち飲み文化に触発され、2016年12月にオープンした同店。現在の繁盛は、立ち飲みの2つの短所を克服して長所を最大限に活用する戦略が奏功した。オープンから間もなく満8年、売上は好調で開店当初から約2倍に到達。ジャズが流れる店内は洒落た雰囲気が漂う。
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8年で売上倍増
取材当日、店舗を運営する株式会社Blue Juice代表取締役・寺田肇氏(51)は、奥まったテーブル席に着いて話し始めた。間もなく開店という時刻に貴重な椅子席を占有することを筆者は心配したが、それは杞憂に終わった。
まだ空は明るい午後4時、オープンとほぼ同時に入ってきた若いカップル2組はカウンターの前に立ってグラスを傾け、もう1組はカウンターの背後にある立ち飲み用テーブルに付いて飲み始めている。「座れない人が立ち飲みを始める」という筆者の予想は裏切られ、少なくとも開店と同時にやってきた3組6人は立ち飲み目的で来店していたのは間違いない。
日本人の多くは「食事は座ってするもの」という固定観念を持っていると思われる。駅の立ち食いそばをわざわざ「立ち食い」と表記するのは、通常、食事は座ってするものであることを裏側から証明している。そうした風土の中、『立呑み 浅草 洒落者』(以下、洒落者)が順調に売上を伸ばしている事実は、「立ち飲みもいいな」と感じる人が一般人の想像より多いことを示している。
そして、立ち飲みという営業スタイルが孕む決定的な短所を解消し、長所を最大限に活用したことも『洒落者』の繁盛の理由である。換言すれば独自のスタイルの立ち飲みを確立した結果の今日の隆盛と言っていい。
立ち飲みの長所は大きく分けて4つ。①同じ面積でも椅子席より多くの客を収容できる、②回転率の良さ、③低価格、④角打ち(酒店で購入した酒を店舗の一角で立って飲むスタイル)に代表される、豊富な種類の酒を提供しやすいこと――である。
①、②は店舗の構造、システムを考えれば『洒落者』も問題なくメリットを手にでき、絶対的な客数の増加で売上がアップすれば、③低価格の実現も可能になり、結果として同店の客単価は3,000円前後となっている。また、②回転率が良いほど日本酒などの品質を損なわずに売り切ることができるため、④豊富な種類の酒を提供しやすい。特に寺田氏は季節感を重視し、多様な日本酒を揃えることに力を入れている。
取材当日は「寒北斗(福岡)極み辛口 BLACK JACK」(5勺500円)、「二世古(北海道)秋上がり 特別純米原酒」(5勺500円)、「智恵美人(大分)純米酒」(5勺600円)、「而今(三重)純米大吟醸 白鶴錦」(600ml 1,200円)など全国から集めた20種のラインアップ。
「もともと店長が和食出身ということもあり、和食なら日本酒ということで力を入れています。定番を置かずに次々に入れ替えるのが特徴です。お客さんの中には『今日、新しいの入ってる?』と聞く方もいらっしゃいます」と言う。こうして店舗運営上、4つの長所は享受できている。
