2025年度の最低賃金改定について独自調査。飲食店での人件費高騰への具体的な対策は?
2025年10月1日から順次発効される最低賃金について、厚生労働省は全国加重平均が時給1,121円(昨年度1,055円)になったと発表し、すべての地域において時給1,000円を超える状況となった。最低賃金改定による人件費高騰は、飲食店経営にも大きな影響を与えるだろう。
そこで「飲食店ドットコム ジャーナル」では、飲食店ドットコム会員を対象にアンケート調査を実施。今回の改定が及ぼす影響と、人件費上昇への対策などについて紹介する。
■調查概要
調査対象:飲食店ドットコム会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:309
調査期間:2025年8月1日~2025年9月11日
調査方法:インターネット調査
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半数以上が「収益を圧迫する」と回答
まず、最低賃金の改定が、飲食店経営にどのような影響を与えるかを質問した。回答の多い順に下記のようになっている。
・人件費の増加が避けられず、収益を圧迫する(55.3%)
・メニュー価格の見直し(値上げ)を検討している(35.0%)
・経営への影響は特に感じていない(23.3%)
・既存スタッフとの賃金格差の見直しが必要になる(20.4%)
・新たな人材確保が難しくなる(19.1%)
半数以上が収益を圧迫すると回答しており、時給アップは飲食店の経営に直接的な影響を与えることがわかる。メニューの値上げを検討するという飲食店も35%あり、人件費の上昇分を価格転嫁せざるをえない状況がうかがえる。
また、既存スタッフとの賃金格差や人材確保が難しくなるという意見も多い。その一方で、23.3%の飲食店が「経営への影響は特に感じていない」と回答している。
人件費上昇には「生産性向上」で対抗
次に、人件費上昇や人材不足という課題にどのような対策を行っているかを質問した。
・シフト管理の最適化や、少人数でのオペレーションを模索している(38.5%)
・メニュー構成や仕入れ先を見直し、原価率の改善を図っている(35.0%)
・特に対策は講じていない/これから検討する(27.2%)
・従業員一人あたりの生産性を高めるための教育・研修を強化している(17.5%)
・従業員の待遇(福利厚生、休暇制度など)を見直し、定着率を高めている(14.6%)
シフト管理の最適化や原価率改善、生産性向上のための教育・研修など、人件費以外のコストをできるだけ抑えつつ、生産性を高めていこうと考えている飲食店が多く見られる。また、福利厚生などの待遇を見直することによって定着率を高め、採用コストを抑えるという飲食店も一定数見られた。
一方、まだ対策を講じていないという飲食店も27.2%と3番目に多い回答となった。
人件費高騰への具体的な対策は?
では、人件費が高騰する状況において、具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。自由回答からは、次のような傾向が見られた。
1. 業務効率化
・モバイルオーダーを嫌がるオーナーが多いが、タイミーや新人がいてもそれなりに営業が成り立つのでおすすめ(東京都/イタリア料理・居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
・最小限の社員でタイミーなどをスポット活用、良い人材を緩めのアルバイトで採用(東京都/イタリア料理・バー/2店舗)
2. 収益改善
・シンプルに値上げして利益を確保すること。あわせて、商品見直しの一環で新商品を開発することで値上げ感を無くす。ある程度は値上げに理解して頂ける時期なのでしっかり価格転嫁する。アルバイトに頼らず、社員のみで運営できるようにすることでサービスも良くなり単価も上がると思います(東京都/そば・うどん/2店舗)
・仕入れを全て見直す(兵庫県/バー・居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
・単純な値上げ。あまり企業努力ということにとらわれすぎてもいけないなと(長野県/焼肉・居酒屋・ダイニングバー/3〜5店舗)
3. 人材定着
・スタッフごとに教育プランを作成しどの方向に伸ばすか見極め実行する(東京都/カフェ・バー/1店舗)
・基本的に従業員ファーストで考えてます。常に働きやすい環境を意識し、機材や道具の購入により、労働時間の短縮をしております(東京都/フランス料理/1店舗)
・定休日を増やしてトータル営業時間を短縮することが、何よりも効果的。労働時間短縮は従業員のゆとりに繋がり、良いサービスの原資となる。但し、トータル売上は定休日を増やす以前と同じにならないといけない。よって選ばれる店になる為の施策を継続し続けることが重要(東京都/カフェ/1店舗)
最低賃金改定で不安の声は多いものの、前向きな意見も
最後に2025年の最低賃金改定について、経営者の率直な感想を聞いた。飲食店の存続についての不安が最も多かったが、前向きに捉える回答も次いで多く見られた。
1. 店舗存続への不安
・賃金が上がることはとても良いことだが、上げ幅が大き過ぎる。もう少し緩やかに上昇してほしい。短期間に少しずつも、既存スタッフのベースアップなど大変(沖縄県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
・正直、物価が上がる中、給与だけ上がるのは経営陣としてはかなりキツくなっています。お客さまに安く提供したい反面、値上げは苦しい選択になります(東京都/そば・うどん・居酒屋・ダイニングバー/2店舗)
・最低賃金をあげても消費が増えるわけではないと感じている。つまり人件費率がふえるだけ。従業員にとってはいいかもしれないが長期的に零細企業が継続していくためには苦しい(長野県/焼肉・居酒屋・ダイニングバー/3〜5店舗)
2. 最低賃金上昇に前向きな意見
・仕方ない。安過ぎる飲食店もそろそろ全体的に価格を改定し、正当な利益を得て従業員に還元しないと人手不足は解消しない。飲食を志すやる気のある人しか集まりません。また経営者が無休無給労働で成り立っている所も多い(神奈川県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
・中小企業としてキツイが、物価が上がってる以上避けられない事項だと思います。政府目標の1,500円になっても収益出せるお店の改革が必要かと思います(東京都/ラーメン・居酒屋・ダイニングバー/2店舗)
・賃金を上げるのは全然問題ない。むしろ他の業種よりも上げたいくらい。その1歩として業務改善助成金を利用する予定(秋田県/イタリア料理・カフェ・居酒屋・ダイニングバー・テイクアウト・バー・洋食/6〜10店舗)
最低賃金改定によって、全都道府県で時給1,000円を超える見通しとなり、飲食店からは厳しい声も聞かれる。この状況を乗り越えていくためには、それぞれ現状の課題を認識し、一つずつ対策を行っていくしかない。補助金や助成金なども活用して、この機会に業務効率化や生産性向上を目指してほしい。
