坪月商90万円の神田『かきのおきて』。100名採用の未経験者を“職人に変えた教育制度”とは?
時給1,300円の「密度」を高める。学生アルバイトが経営者目線を持つ仕掛け
飲食店の現場において、アルバイトスタッフのモチベーション管理は永遠の課題だ。「楽をして稼ぎたい」と考える学生も少なくない。実際、店長の沼倉氏も「最初は『1時間楽に過ごして1,300円もらえればいい』という子も多かった」と振り返る。
しかし、現在の『かきのおきて』のスタッフたちは違う。「〇〇さん、予約が変更になったので、次のお客さまをこちらに入れましょう」と、自ら判断し、声を上げて営業を回している。なぜ、彼らの意識は変わったのか。沼倉氏が実践しているのは、「時給の価値」を問い続けることだ。
「時給1,300円の中で、どれだけ密度の濃い時間を過ごせるか。それによって、受け取るお金の重みや喜びは変わってきます」
沼倉氏は、大手チェーンのハンバーガーを例に出してスタッフに問いかける。
「同じ100円のハンバーガーでも、パンが潰れて冷めているのと、温かくてパンが張っているのとでは価値が違います。僕たちは時給という対価をもらって、その『質』を高めることを依頼されているんですよ」
自分自身が消費者になったときの感情に置き換えさせ、仕事の本質を考えさせる。いわゆる「自分事化」だ。さらに、日々のコミュニケーションツールとしてLINEを活用し、お客からのアンケート結果を共有。「ここが悪かった」と叱責するのではなく、「こうするともっと良くなる」と未来志向でフィードバックを行う。
「今の時代、頭ごなしに怒るのでは誰の心にも響きません。『なぜダメだったと思う?』『どうすればよかった?』と問いかけ、自分で考えさせる習慣をつけることが重要なんです」
この「問いかけ」の繰り返しが、指示待ち人間を自律型人材へと変貌させた。オープニングから在籍している学生スタッフの山田氏は、飲食未経験だったが、今では電話対応から予約管理まで1人でこなし、後輩に「教え方」を教えるまでのリーダーに成長したという。
涙の「決意表明」。社員を本気にさせる30日間の集中プログラム
アルバイトだけでなく、社員教育においても『かきのおきて』の手法は徹底している。店舗急拡大のフェーズにおいて、店長クラスの人材育成は急務だ。同社では、社員に対して約30日間の集中研修期間を設けている。ここでは、調理や接客のスキルだけでなく、マネジメント、数値管理、そして「コミュニケーション」について、座学で学ぶという。
「コミュニケーションを感覚ではなく、言語化して学んでもらいます。チームビルディングにおいて、どう言葉を選び、どう伝えるかは技術だからです」とトレーナーの丹野氏は語る。
一方、研修の最後に行われる「修了式」も重要だ。ここで新任店長は、オーナーや関係者の前で「決意表明」を行う。
「どんなお店にしたいか、自分の言葉で宣言してもらいます。先日オープンした池袋店の店長は、『人の温かみのあるお店にしたい』と涙ながらに語ってくれました。その熱意を聞いて、僕たちもグッときましたね」(丹野氏)
ただ業務を教えるだけでなく、公の場で覚悟を問う。この通過儀礼を経ることで、社員は「雇われ店長」ではなく、「一国一城の主」としての自覚を持つようになる。結果として、社員の離職率はほぼ0%。「人は、自分の成長を感じられる場所からは離れない」という鉄則を、同店は証明し続けている。




