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飲食店の永遠の課題「離職率低下」へ、ワンダーテーブルの挑戦。6つの取り組みに学ぶ

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株式会社ワンダーテーブル 取締役 戸田史朗氏

飲食業界特有の事情に「従業員の離職率が高い」という問題がある。仕事を覚えて重い責任を負うようになった社員に転職されると短期的には経営効率が下がり、長期的には企業の核となる人材が育ちにくくなる。こうした問題から業界内部でも離職率を低くする試みを行う企業は少なくない。

飲食企業に勤める正社員の平均的な勤続期間「5年以上」は33%

しゃぶしゃぶ・すき焼きの『モーモーパラダイス』『鍋ぞう』、シュラスコ料理の『バルバッコア』、ビアバルの『YONA YONA BEER WORKS』、台湾で展開しているイタリアン『BELLINI CAFFE』など多くの店舗を運営する株式会社ワンダーテーブル(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:秋元巳智雄)は、社員の離職率低下に向けて積極的な取り組みを行なっている。

まず離職率に関するデータを見てみよう。「飲食店.COM」が飲食店経営者に対して行ったアンケート調査によると、正社員の平均的な勤続期間が「5年以上」と答えた飲食店は32.8%に過ぎなかった。一方、ワンダーテーブルの正社員の平均的な勤続年数は7.5年だという。

「特にここ2、3年は新卒社員も入れていますので、その中で7.5年というのは比較的長い数字かなとは思います」(同社取締役 戸田史朗氏、以下コメントはすべて同氏)。

ビアバルの『YONA YONA BEER WORKS』

離職率低下のための6つの取組み

ワンダーテーブルでは社員の離職率の低下のため、以下のような取り組みを行っている。

1、社員研修
2、クラブ活動
3、アルバイトからの登用
4、海外進出
5、社員による文化の形成
6、ブランド戦略
以下、順次見ていこう。

頻繁に実施する社員研修は戦略的に行われる

社員の個々のレベルアップを図るために月に2回程度の研修を行っている。それらは社員の個々の成長という目的以外に、もう1つ重要な役割を持っている。

「同期社員が定期的に集まる機会を作ることに意味があります。研修に参加させることで社員の連帯感や、会社としてのバックアップを感じてもらうわけです。『あなた方はワンダーテーブルという会社に就職し、同期がたくさんいて、それぞれ頑張っていますよ』というのを月に1回、リマインドしていくわけです。そうすると店で嫌な事が起きても『ウチの会社はたくさん店がある、仲間がいる』という思いになるわけです。それが1店舗にいると誰にも相談できず、そのまま辞めていくケースもあります。その意味で研修は離職率を下げることに貢献していると思います」。

クラブ活動と社員研修の共通点

社員によるクラブ活動も盛んに行われている。ランニング、バスケットボール、野球、フットサルなど。野球なら朝に集まったり、日時を決めて集まれる人だけが集まって練習しているという。大会がある時は会社からの補助も出る。

「社員研修と同じです、考え方は。研修は仕事ですが、仕事以外で集まってやる。違う店のメンバーと一緒に何かをやるというのは、親近感とか何かあった時に相談できるネットワークができます」。

『YONA YONA BEER WORKS』の店内。タップがずらりと並ぶ

アルバイトからの登用、中途採用は概して定着率良好

同社ではアルバイトをA社員、フルタイムで働く社員をF社員と呼んでいる。支配人などのトップはF社員に限定されるが、A社員で店舗のナンバー2という存在も少なくないそうだ。アルバイトから正社員に採用されることも多く、中途採用のほぼ半数がそのパターンだという。アルバイトから正社員になろうというのは、それだけ会社に対する理解や共感が高いと考えられる。

「ウチで働いてくれていたわけだから価値観の共有は早いですし、溶け込み具合は早いですね。概して、A社員からF社員になった人は長期間勤務することが多いと感じます」。

社員のモチベーションとなる「海外進出」

積極的な海外進出は、海外志向の若者への刺激になっている。

「実際に海外勤務というのはありませんが、海外のお店が増えているのはモチベーションとして社員には伝わっていまして『英語を頑張ります』という社員も増えています。将来的には海外事業という仕事に就きたいという社員もいます。そういう意味では海外の事業が大きくなるのは、モチベーションの向上には繋がっているのかなと思います」。

社員による文化の形成

同社は社員による文化の形成を社員の定着における重要なポイントとしている。「社員による文化」とは漠然としているが、社員が集まることで一定の意識が共有されたり、モチベーションを高めあったり、何らかの「化学反応」のようなものが生じることとでも言うべきなのだろう。

「離職率を下げるためには文化をつくっていかないと。その意識が高ければ高いほど辞める確率は低くなっていくものです。文化作りがうまくいかないと仕事に対しても人に対してもいい加減なところが出たり、すぐに諦めてしまったり、そういうのが出てしまいます。チームとしても弱くなります。文化をうまく作っていけると、何かあった時に耐えられます。たとえば高卒のメンバーが多かったりすると社会に出た事がないので学生の延長とは言いませんが、経験したことがないことについて比較的打たれ弱いところが出てきてしまいます。ですから最初の段階で、そういう雰囲気を作ってあげることが大事だと思います」。

シュラスコ料理の『バルバッコア』

社員を魅了するブランド戦略

ブランド戦略を巧みに使うことが離職率低下につながるとも考えている。同社が掲げるミッションは『市場を拓き、嬉しい時を創る』というもの。これによって他社との差別化を図り、その結果、社員に「この会社で頑張りたい」という思いを抱かせる。たとえば、同社は日本ではあまりなじみがないシュラスコというブラジルの肉料理の部門では圧倒的なシェアを誇っている。これが「市場を開き」の代表例だ。

「『市場を拓き』というのは、自分たちが最も得意とするマーケットで戦う、市場を絞ってトップを取る戦略です。ウチの場合すごく明確です。それが社員を目指す者に『この会社は違うよね』というメッセージに変わります。そうすると実際に採用された社員は『この会社は他の会社とは違う、この会社で頑張れる』といった意識につながります。『嬉しい時を創る』というのはホスピタリティの考えですが、そういったところも同じようにやります。そうしたことを研修でも一貫してやって『この会社らしいよね』ということが伝わり、そのまま在籍につながると思っています。要は会社の魅力が人を留め置くということでしょうか。会社の魅力とは『他と比べて何が違いますか』ということだと思います」。

社員の離職率低下策の効果は?

同社では2014年から新卒の採用を再開した。3年間の新卒社員の定着率は66.7%である。以下は現在の在籍している社員の数で()内は採用人数である。2014年入社組は全員が在籍している。

2014年 3人(3人) 離職率 0%
2015年 6人(9人) 離職率 33.3%
2016年 7人(12人) 離職率 41.7%
合計  16人(24人) 離職率 33.3%

「今年は離職率が少し高かったと思っています。われわれは如何に会社に残ってもらえるかというのをメーンにして、新卒の採用をやってきました。2016年は採用のバランス、例えば男女、学歴などのバランスが悪かったというのが反省点です。ある程度、バランスをとらないとダメだなというのが分かりました。ただ(離職率は)決して低くはないですけど、われわれが考えている採用をしてきていますし、他の業界のことは分かりませんが、(総じて)いい結果だったのかなと思っています」。

同社の今年の新卒採用予定は20名である。

エントランスにて

トップの意識が社員定着の最大のポイント

最後に高い離職率に悩む飲食企業へのアドバイスをお願いすると、戸田取締役からは大事なのはトップの意識という言葉が出てきた。

「トップに『長く働いてもらえる会社にしよう』という意識がなければ、社員に長く働いてもらえないと思います。その意識次第かなと思っています。離職率を下げるというのは結果でしかないわけで、問われているのは『自分たちの会社でやりがいを持って働いてもらえるようにしているか』ということじゃないですか。トップが『うちはお客様第一主義だから、お前ら死ぬ気で働け』とか『何をやってるんだ』と言っても良くはならないですよね。それは表面上のものであって、お客様第一主義のためにどうやって人を雇って、育て、その人にどうやってもらいたいのかが一番大切です。トップがそう考えてそう行動しないと、いけないと思います」。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/