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激増する訪日ムスリムで商機到来。飲食店のハラール対策、繁盛店に成功のポイントを聞いた

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『焼肉ぱんが 新御徒町店』に食事に訪れていたハムダンさん夫妻

大手焼肉チェーンの『牛角』が、4月17日に赤坂店をオープンさせた。同店は都市型店舗という形態と、ムスリム(イスラム教徒)対応メニューの販売で注目されている。近年イスラム圏からの訪日客は増加の一途。彼らを呼び込めばビジネスが広がると考える経営者は多いだろう。その成功のポイントの1つは「日本人客を確保せよ」という、意外なものだった。そして、我々は知らないうちにハラール食材を食べているという事実も。

和牛に舌鼓、激増する訪日ムスリム

東京都台東区、都営地下鉄大江戸線「新御徒町駅」から徒歩3分の場所にある『焼肉ぱんが 新御徒町店』は開店からおよそ20年、商店街にある、ごく普通の焼肉店である。しかし多くの日本人客に混じって、ヒジャーブと呼ばれる頭に被る布を着用したイスラム圏の女性の来客が目につく。

取材があった日も多くのムスリムと思しき人々が出入りしていた。その中の1組がマレーシアからやってきたファティ・ハムダンさん(26)と奥さんのハミザさん(26)。ファティさんは「新婚旅行で日本に来たんだ。この店はスマートフォンで検索して見つけた。和牛を食べたけど、最高だったよ。この後はColdplayのコンサートを観に、東京ドームに行くんだ」と日本を満喫している様子。

ハムダンさん夫妻はムスリムである。彼らは宗教的理由でアルコールや豚肉を口にせず、牛肉や鶏肉、調味料等も戒律に従って処理された物しか口の中に入れない。そうした食品、調味料をハラール(イスラム法で合法の意味)と呼ぶが、『焼肉ぱんが 新御徒町店』は2015年12月にハラール認証を取得した。その後、ネット情報などで徐々に知られるようになり、それに比例してイスラム圏からの客が増えている。「去年もすごかったけど、今年はもっとすごいです。通常は来客する3割ぐらいがムスリムですけど、4月は5割ぐらいでしょうか」と同店の佐藤弘昭店長は言う。

もっとも和牛に関しては、イスラムの戒律に従った食肉処理がされている輸入牛肉と違い、日本でそれを行わなければならないためにコストがかかり、利益率は以前とそれほど変化がないという。こうした点は今後のマーケット、もしくは行政によって解決されるべき問題で「今は投資の段階」(同店長)だという。

話を伺った佐藤弘昭店長

来日するイスラム圏の国はインドネシアとマレーシアが主力だ。2016年は両国合わせて66万5209人。2017年は3月まででインドネシア人が45.6%増、マレーシア人が19.2%増と対前年度比で大きく数字を伸ばしている(日本政府観光局=JNTO調べ)。このペースでいけば、今年は85万人程度の来日が見込める。

「ムスリムにとって、焼肉は人気メニューです。それからラーメン、うどんなどの麺類、スイーツ、あとは“ザ・和食”の寿司、天ぷらなどが人気です。なかでも一番人気があるのは焼肉でしょう」と一般社団法人ハラル・ジャパン協会の佐久間朋宏代表理事。増加する訪日ムスリム、そして焼肉の人気ぶりと、ハラールを扱う焼肉店には明るい材料が揃っている。

同店がハラールの焼肉店になったのは、御徒町にあるモスク(イスラムの礼拝堂・多目的施設)の関係者から「全面協力するから、ぜひ」と頼まれたのがきっかけ。主にモスクからの指導を受け、およそ3か月でハラール認証を受けた。

もっとも同店はムスリム専用の焼肉店になったわけではない。ハラール認証を受けて、ハラールの食材を使っても、それまでの日本人の客は変わりなくやってくる。このことが店舗経営の上では、極めて重要なポイントとなる。

今日から始められるムスリム対応、日本人も食べているハラール食材

誤解してはいけないのが、ハラール認証を受けたら、翌日からムスリムが店の前に行列をつくるわけではなく、また、ハラール認証がない店にはムスリムが来ないということではない点である。仮にあるレストランが食材、調味料をハラールにすれば、ムスリムが話を聞いて来店する可能性はある。つまりムスリム対応はハラール認証を受けずに今日からでも始めることは可能なのだ。そうやって始めたとしても、日本人はハラールであることに気づかないで食事をしていく。「北海道のジンギスカン(羊肉)の多くはハラールです。ほとんどの肉が国策でハラールをやっているニュージーランド産ですから。仕入れの所を見るとハラールのマークがついています」(ハラールメディアジャパン株式会社・守護彰浩代表取締役)というように、我々は知らないうちにハラール食材を食べていることになる。

ムスリム対応はおよそ3つに分けられる。
(1)ハラールと謳わずにムスリム対応(メニューをハラールにする)
(2)ムスリムフレンドリー対応(酒、豚等の非ムスリムのメニューもあるがハラールもある、日本式部分ハラール認証とも言うべき対応で『焼肉ぱんが 新御徒町店』はここに該当する)
(3)食材、調味料すべてハラールにして、非ムスリムメニュー(酒、豚等)を置かない対応

数字が大きくなるにつれて厳格になっていく。日本では(2)でもハラール認証を受けられるし、論理的には(3)でもハラール認証を受けていない場合もありうる。つまり、ハラール認証というのはムスリムを呼び込む魔法のマークではなく、ひとつの目安に過ぎないのである。

『焼肉ぱんが 新御徒町店』は店の入り口にハラール認証のマークが掲示されている

ハラールについて日本人の誤解を解く

ムスリム対応は、おそらく日本人が思っているほどハードルは高くない。日本人が誤解しやすい点を前出の守護氏に聞くとこんな答えが返ってきた。

━━ハラール認証は国家認証である

守護 違います。日本においてはハラール認証に法的拘束力は何もありません。いちムスリムがハラールと認めた場合に発行する単なるマークです。日本ではムスリムであればだれでもハラール認証は発行できます。

━━ハラール認証の食事を日本人は食べてはいけない

守護 そんなことはありません。ハラールは「ムスリムが食べる物」ではなく、「ムスリムの人もムスリムでない日本人も普通に食べられる物」です。

━━ハラール認証された料理はおいしくない

守護 誤解です。私はおいしいハラール料理を作ることができる料理人をたくさん知っています。

━━ハラールの飲食店はイスラムの厳格な戒律の下、許された人だけが行うものである

守護 そういう人もいるという話です。すべての人がそうではないけど、そういう人もいるということです。私は(世界のイスラム教徒の数と言われる)16億通りの意見があると思っております。

ハラールメディアジャパン株式会社・守護彰浩代表取締役

ネックは「断食月=ラマダーン」、日本人客の重要性

ムスリムをターゲットに飲食店を始めた場合、ネックになるのが宗教的理由によって日中断食をするラマダーン(断食月)である。今年は5月27日から6月25日までで、年によって異なる。この期間は太陽が上がっている間は飲食をしないため、日中、レストランには1人のムスリムもやって来ない。

そのため日本人客の確保が大きな意味を持ってくる。『焼肉ぱんが 新御徒町店』の佐藤店長は「ラマダーン期間中売り上げは落ちます。落ちた分をどうすると言ったら、日本人で埋めるしかないでしょう」と言う。

また、前出の守護氏も実例を上げて対策を示す。「あるお寿司屋さんが昨年から調味料をすべてハラールにして、食材も和牛握りまですべてハラールにしてますけど、日本人の15年間の常連さんが誰もハラールだと気づいていません。こういう店はラマダーンになっても普通に日本人が来るから何の影響もない。今、色々な企業がハラールに取り組んでいますが、結果を出しているのは日本人にハラールと気づかせていないレベルでやっている店ですね」。

実際に『焼肉ぱんが 新御徒町店』から出てきた日本人女性客2人組に聞くと「ハラール?何ですか、それ。イスラム? でも、この店、夜はお酒出してますけど……」と不思議そうに語っていた。

もちろん、観光地の中にムスリムの客が9割近くを占めると言われる店舗も存在する。そういった店舗ではラマダーン期間中はモスクに仕出しを届けるなど、経営努力をしている。それはムスリム対応における経営判断の問題であろう。

守護氏はこうした事情から、実際にムスリムと非ムスリムが混在する店では、豚肉メニューがないのであれば食器も調味料も食材もすべてハラールに替えてしまえば効率的であるとする。それらを1つの店内でムスリム用、非ムスリム用と分けるダブルオペレーションをしていたらコストがかかってしまう。そのためにムスリム対応を諦める経営者が多いが、ムスリム用のシングルオペレーションにしたとしても、非ムスリムには何の問題もない。

画像はイメージ。Photo by iStock.com/pcruciatti

ムスリム対応を始めるために「対応できることから」

実際に小規模な店舗が、インバウンドの波に乗ろうとムスリム対応を始めるとしたら、どのようにすればいいのだろうか。

前出の佐久間氏はできることから始めることを勧める。「ハラルジャパン協会は、ハラール認証を取りたければ支援しますけど、スタートはまず対応できることからすればいいと思います。だんだんレベルを上げて、またはお客さんの要望を聴きながら変えていけばいいんじゃないでしょうか。まず『ハラールと謳わないムスリム対応』で十分だと思います。ただし、それは経営判断ですね。経営判断で『ムスリムフレンドリー』でやるべきだ、または『原則的なハラール認証』で……という店もあります。しっかりマーケティングして、店のコンセプトを決めて、対応を決めればいいと思います」。

『焼肉ぱんが 新御徒町店』の佐藤店長は勉強の必要性を口にする。「始める前にハラールとは何ぞやをよく勉強しないと、そこから先に進めません。ムスリムとは何か、ハラールとは何かを知識として入れないとやっていけないでしょうね。そういう講習会を都や区がやっていますから、聞いてから、できるかできないかを判断しないといけません」。

ムスリム対応、ハラールへの対応には当然のことだが、異文化に対する勉強、知識の吸収が必要である。しかし、日本人が思っているほどハードルが高くないのも、また、事実である。

『焼肉ぱんが 新御徒町店』
住所/東京都台東区台東3-27-9
電話番号/03-3839-8929
営業時間/11:30~14:00、17:00~23:00、日・祝17:00~22:00
定休日/年末年始
http://www.panga-panga.com

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松田 隆

About 松田 隆

フリーライター。スポーツ新聞社に29年余勤務し、記者を長く務める。法律関係を中心に政治、社会の諸問題を扱い、飲食を含む文化、スポーツに関する執筆も行なっている。青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院)卒業。