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下町・北千住に根ざす繁盛店『一歩一歩』。代表・大谷氏が語る「街に愛される」店になるまでの歩み

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株式会社一歩一歩の代表取締役・大谷順一さん

東京・北千住駅周辺に7店舗、沖縄の那覇と石垣に2店舗を持つ『一歩一歩』。店舗によって業態が違うのが特徴で、和を中心に寿司からおでんまで多種多様。4月には10店舗目(北千住は8店舗目)となる魚屋『ツキアタリミギ』をオープンする予定だ。

これらの人気店を運営する株式会社一歩一歩の代表取締役・大谷順一さんが目指しているのは「総合居酒屋」。飲食店に専門性が求められるようになった最近の傾向からすると時代に逆行するかのような考え方だが、そこには北千住だからこその戦略と、街に対する熱い思いがあった。大谷さんに経営哲学を伺いながら、『一歩一歩』の繁盛の秘訣を探っていく。

北千住への出店は「偶然」だった

近年「住みたい街」としても注目を集める北千住。アクセスの良さや暮らしやすさなどを理由に人気を高めており、飲食店もここ数年急増中だ。株式会社一歩一歩は、周辺の大学の開校ラッシュで学生が増え、少しずつ街並みが変わり始めた2007年に、1号店である『炉端焼 一歩一歩』をオープンさせている。当時「北千住」に目を付けた理由を聞くと「偶然」とあっさり。

「たまたま1店舗目が北千住だったってだけなんですよ(笑)。ただ、最初は街の人たちが受け入れてくれなくて大変だった。かなり厳しかったし、嫌みを言われることもあったし……、色々ありましたね。でも一生懸命やるしかないなって。そうしたら不動産のオーナーさんから『お前ら頑張ってるな、うちの(ビルの)下でもやってみる?』と声をかけてくれるようになって。だから最初に出店した本店以外は、全部オーナーさんから直接声をかけてもらって店をはじめたんです」

収支のバランスを考えて、物件の家賃はどんなに好条件でも坪単価3万円以上は出さないと決めている。ほとんどの店舗を北千住の平均坪単価を大幅に下回る値段で貸してもらっているという。思わず「人徳ですね」と口にすると、大谷さんは照れくさそうに笑いながら「スタッフも頑張ってくれたからね」と加え、当時を振り返りはじめた。

北千住の超人気店『一歩一歩』

「正直に言えば、1店舗目は金儲けをしたい、自分の好きなことをやりたいって思ってました。1店舗目は理念もビジョンもバリューもないんですよ(笑)。4軒目にして、ようやく『何のためにやってきたんだろう』って、自分に目を向けて考え出すようになって。そこではじめて『あ、やっぱり俺はお客さんを喜ばせたいんだな』って気づいたんです」

ここで一歩一歩が掲げている経営理念「すべてはお客様の喜びのために」が生まれたという。経営理念には「温かみのある人、料理、店内で一つでも多くの笑顔を集めて行きたい」という言葉が添えられているが、これを実現するために創業時から料理はすべて手作り。化学調味料は一切使わないという。

「懐石割烹の世界で(20歳から)8年間生きてきたから、煮物が全部同じ味っていうのがしんどくてね。28歳ではじめて居酒屋に入ったときに全部同じ味でビックリしたんですよ(笑)。その店で料理長をまかせてもらえるようになったときに、化学調味料は『全部捨てていいですか?』って社長にお願いして。そしたら月商も上がったし『美味しい』って言ってくれる人も増えた。だから自分のお店では化学調味料は使わないようにしているんです。もうね、化学調味料を使った料理食べると、家に帰ったあと喉乾くでしょう。水飲まないと眠れないみたいな(苦笑)。ああいうのが自分も嫌だから、絶対出汁を引く」

大谷さんの料理人としての修行はおよそ12年。磨いてきたスキルと経験を生かした経営哲学は功を奏し、北千住を飛び越えて、もともとは社員旅行で行っていた石垣島、那覇にまで出店の声がかかった。現在計9店舗。炉端焼きから寿司までさまざまな業態があるものの、決して「それだけ」に特化しているわけではない。大谷さんが目指しているのは冒頭の通り「総合居酒屋」で、全ての店舗でサイドメニューの充実を図っている。

「北千住は都心部とは環境が違うから業態に特化してしまうと、お客さんが集まらないんですよ。だからうちは“総合居酒屋”。『あそこいったら何食べても美味い』と言われたいので、いまのスタンスを継続しています。でも時代に反しているとは思いますね(笑)。ただでさえ人手不足が叫ばれている時代で、料理人のスキルが足りない場合も珍しくない。総合居酒屋の場合は、最低でも70品、日替わりを入れたら100品切るくらいは用意しないといけないと思ってて。そうすると、管理の仕方、料理人の知識の問題、包丁スキルなどが必要とされてくるんですね。最悪、ロスが出やすくなったり、提供スピードが遅くなる可能性もある。だから僕の言う総合居酒屋はある意味、時代に反してるんじゃないかなと思ってるんですよ。でも反したことをやるほうが、結果的に強みになりますし、収益構造が良いなと思っているんです。実際、売上の昨年対比も107%くらいで、これまで前年を割ったことがない。本当に少しずつですけど、徐々に上がってきています」

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。