コロナ禍で消費者に求められる飲食店とは? ホットペッパーグルメ外食総研が発表
今、飲食店に求められることは「提供態」の多様化
こうした社会・消費者の変化の中で、飲食店はどうあるべきなのだろうか。続いて「ホットペッパーグルメ外食総研」エヴァンジェリスト・竹田クニ氏より「今後の飲食店に求められること」について解説してもらった。
調査結果からもわかる通り、コロナ禍においてイートインの集客は厳しくなっており、多くの店舗がテイクアウトやデリバリー、通販に取り組んでいる。消費者にも店頭でなくインターネットでテイクアウトや通販の商品を注文するなどのオンライン消費が定着しつつあるが、これは従来からの「外食」「中食」「内食」のカテゴリーを越えた“ボーダレス競争”を一層加速させたと、竹田氏は言う。
「これまでは、外食・中食・内食のプレイヤーがそれぞれのセールスマーケティングで商品を提供してきました。消費者はある種、店側の合理性に合わせて選択をしてきたわけです。しかし、これからは“食べる”という体験が多様化します。消費者のある意味“わがまま”に対して、提供の形を変えていくことが、これからの食ビジネスのあるべき姿ではないかと考えています。私はこの提供の形を『提供態』と呼んでいます」
例えば千葉県松戸市の洋食店『エッグスカントリー』では、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、テイクアウト・デリバリーの専門業態『海わっぱ肉わっぱ』を開業。さまざまな提供態を合わせることで、同店は全体の売上が昨対120~130%となり、客単価もアップしたという。
「これまで、私たちは飲食店ならではの価値を『メニュー』『食材の質』『ストーリー』『空間の魅力』『接客』という5つで説明してまいりましたが、ここにきて『提供態』を新たな価値として加えるべきだろうと思います。この6つを合わせて価値提供することが、飲食店に求められているのではないでしょうか」(竹田氏)
提供態や状況に応じて新たに見直したい「マーケティング」
提供態の多様化と併せて重要なキーワードとして挙げられたのが、「マーケティング」の見直しである。竹田氏は語る。
「コロナ禍でデリバリーや通販の市場が伸びていますが、多くのデリバリーサイトでは半径3km圏内が表示されます。そうすると、これまでのイートイン主体の市場環境ではライバルになり得なかった店、3km先のお店がライバルになってくるわけです。しかも、この競争では商品のみが重要で、立地は関係ありません。このような変化に対して、改めてマーケティングを考えていくことが大切になってきます」
こうした変化に応じて効果的な施策を行っているのが、東京都中野区の飲食企業「MU」。店舗を運営している街に合わせていくつかの業態を展開している。例えば、住宅街が近い店では弁当販売を強化することで業績を維持。一方でコロナ禍のあおりを受けた繁華街の店舗は休業し、新たに高単価のテイクアウト総菜の需要が見込める店舗を世田谷区に開業することで、計画値を上回る売上を確保している。
さらに、今後は需給状況に応じて価格が変動する「ダイナミックプライシング」の導入も有効になってくるのではないかと竹田氏。
「同じ料理でもテイクアウト、デリバリー、通販などの提供の仕方によって価格が違ってくることは消費者に理解され始めています。食事とサービスの概念分離が、ひいてはダイナミックプライシングにつながってくるのではないかと考えています。ダイナミックプライシングは宿泊産業や航空業界などではすでに定着している考え方。これが外食でも徐々に浸透していくのではないでしょうか」
ダイナミックプライシングは、実際に飲食店でも取り入れられつつある。例えば東京・渋谷区にある和定食店『お食事処 asatte』では、2020年6月より混雑具合によってランチの値段を変更。結果として客単価アップにつながっただけでなく、ピークの時間帯以外の集客にも成功している。
市場環境が大きく変わり、これまでの経営戦略が通じなくなりつつある今、その苦しみの中で多様な取り組みが登場している。このことについて竹田氏は「改めて外食の価値を見つめ直すきっかけになったのではないかと感じています」とコメント。そして多くの店舗が自店の在り方を見直した結果、外食産業の未来を感じさせる取り組みが生まれてきている。今回の調査結果、そして先に挑戦している飲食店の事例を参考に、各店なりの戦い方を見つけてほしい。