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「海外でシェフとして生きること」シンガポールで活躍する2人の日本人シェフの挑戦(後編)

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『オマカセ・スティーブン』の料理。毛蟹の身とカリフラワーのピューレを使ったひと品

デメリットもメリットに

「食材の鮮度については、日本から届く日数はずいぶん短くなりましたけど、それでもある程度妥協することは必要かもしれないです。時間的な壁は越えられない。また、日本みたいな季節感がないので、食材の本質みたいなところに触れられないのはしんどいです。山に行って、キノコはこういうとこに生えていてという、日本で当たり前にできる『土地からインスピレーションを受けて料理を作る』ということができない。それもこっちに来たからわかったことで、デメリットでもあり、今のこれからの自分にはメリットでもあります。将来どういうところで料理するかということを考えるきっかけをもらえたわけですから」

窪田さんは、師の石井真介さんがよく口にした「敵を知り己を知れば百戦危うからず」(「孫子」)という言葉をずっと心に留めていたという。「戦いでは、敵の実力や現状を知ることと客観的に自分を知ることが大切である」という意味だ。

「『シンシア』の石井シェフがよく言っていたこの言葉は、ずっと自分の中にありました。自分はどこで戦えばいいのか。戦う場所を見極める必要があると思うんです。僕は子どものころ野球をやっていたので、強豪チームで何人レギュラーになれるのか、といつも考えていました。今も同じです。自分の価値を最大化できる場所はどこなのか、考えてみてもいいのかなと思います。

自分がシンガポールで働けているのは本当に運が良かったと思っています。シンガポールに来て、店をオープンはしたもののコロナが始まって大丈夫かなと思っていたんですけど、結果的にはシンガポール国内にお金持ちが閉じ込められて、国内消費が進んだのも幸運でした。

ここでもう2年になります。常連さんも増えました。このまま少なくともあと5年はシンガポールにいて、また新しいチャレンジをして、結果が出せればいいなと思っています」

どの土地にいても学べるものはある。客観的に自分を見れば自分の長所も見えてくるものだということを、窪田さんの挑戦は教えてくれる。

窪田修輔(くぼた・しゅうすけ)
1992年、長野生まれ。辻調理師専門学校を卒業後渡仏、帰国後、東京・北参道の『シンシア』の立ち上げに参加、スーシェフを務める。2020年、シンガポール『オマカセ・スティーブン』のシェフに就任。2022年、若手料理人コンテスト「RED U-35」で準グランプリを獲得。

『Omakase @ Stevens(オマカセ・スティーブン)』
住所/30 Stevens Rd, #01-03, Singapore
電話番号/+65 6735 8282
席数/16
https://www.omakase.com.sg/

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。