飲食店ドットコムのサービス

15坪で1日の集客200人以上。“面倒な”注文方法でも常連客が絶えない『なまけ』の愛され力

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

『なまけ』スタッフの皆さんと。右から二番目がオリエンタル物産株式会社の寿司事業部 兼 営業推進部営業部長の栗田圭吾氏

画像を見る

2022年7月にオープンした『なまけ』蒲田本店は、大衆酒場の激戦区である東京・蒲田で大ヒットを飛ばしている立ち飲み酒場だ。客単価は2,450円。15時の営業開始直後から店内が常連客で溢れかえり、15坪の規模で一日の客数が200人を超える日も少なくない。ずば抜けた集客力を発揮している『なまけ』の強さの秘訣を、同店を運営するオリエンタル物産株式会社の寿司事業部 兼 営業推進部営業部長の栗田圭吾氏にうかがった。

【注目記事】『大衆食堂スタンドそのだ』3か月で月商700万円達成。下北沢でも活かされた「勝利の方程式」

お客自身が代金を計算し、チケットに商品名を書き込む注文システム

2022年7月にオープンした『なまけ』蒲田本店はさまざまな点で異色の立ち飲み酒場といえる。イワシ、ホルモン、ラムをフードの3本柱にしていることもユニークだが、それ以上に変わっているのが、チケット制による注文システムの採用だ。

チケット制を採り、券売機では税抜200円(220円)、税抜300円(330円)のチケットを販売。常連客の大半がチケット一枚分が無料になる11枚綴りを購入する

画像を見る

お客は入店時に金額だけが明記された税抜200円(220円)と税抜300円(330円)のチケットを券売機で購入。その足でファーストドリンクを注文すると、スタッフから名前(あだ名でも可)を訊かれる。お客の名前は、ドリンク用のプラスチックカップにスタッフが記入。以降の注文は、お客自身がチケットに商品名と自分の名前を記入し、それをスタッフに手渡すという流れだ。ちなみに『なまけ』では、水道光熱費の削減と業務効率化のため、フードはプラスチック皿、ドリンクはプラスチックカップで提供される。

卓上に置かれた注文システムの説明書き。裏面でチケット複数枚による注文方法などについても説明している

画像を見る

フードは税抜200~600円を中心価格帯とした定番13品、日替わり約80品という幅広い商品をラインアップ。看板メニューの「いわしたたき」(300円)と「ホルモン焼」(300円)などは300円チケット一枚で注文できるが、「生ラム塩焼き」(600円)は300円チケット二枚、「ねぎとろ刺」(500円)は200円チケット一枚と300円チケット一枚といったように、5割ほどの商品はチケット複数枚を組み合わせて注文する必要がある。

鮮魚の仕入れによって商品ラインアップが変わるため、メニューの8割が日替わり。ホワイトボードに貼り出された日替わりメニューは画像をインスタグラムにアップしている

画像を見る

お客を名前で呼びかける接客が常連客づくりの鍵

チケットに注文したい商品名と自分の名前を記入し、商品価格に合わせてチケットの組み合わせを考える。お客にとっては少々面倒な注文システムにも思われるが、それでも『なまけ』が支持され続けるのはなぜなのか。理由は大きく二つある。一つは立ち飲み酒場のレベルを超えた商品クオリティ、もう一つは名前で呼びかけてもらえる接客サービスの楽しさだ。

商品クオリティについては後述するが、名前で呼びかける接客サービスの狙いについて栗田氏は次のように説明する。

「これはもともと提供ミスを防ぐ目的で導入したサービスでした。弊社は他にも、スタンディングの酒場や寿司店などを都内に7店手がけていますが、立ち飲みは席が固定されていないため、席番号との紐づけだと提供ミスが起こりやすかったんです。そこで、お客様を名前でお呼びするようにしたところ、お客様が場所を移動されていてもすぐにわかり、しかも、お客様との距離も縮まった。一挙両得のサービスになったのです。『なまけ』ではそのノウハウを応用し、チケット制と結びつけたのですが、それがうまくいきました」

プラスチックカップに書かれた名前と注文する商品名をチケットに記入。それをスタッフに手渡す

画像を見る

さらに、「面倒に思える注文システムも、実は常連客づくりのフックになっています」と栗田氏は言う。

「店の『入りにくさ』『利用しにくさ』は、一つのフィルターになるんですね。こうした最初のハードルを乗り越えてでも、気になって来てくださるお客様は、店のスタイルを好意的に受け止めてくれやすい。しかも、『この店、いいな』と思ったお客様に再来店していただけるため、店の雰囲気もよくなります。『なまけ』では面倒な注文システムがその役割を果たしているわけです」

独特な注文システムに戸惑う初来店のお客は少なくないが、それを見て、複数回利用したことのあるお客が注文方法をレクチャーするといったシーンも『なまけ』ではごく自然に見られる。

注文方法を教えてもらったお客は、そうした店の雰囲気に好感を持ち、ファンになってくれる。一方、注文方法を指南したお客も、その行為によってちょっとした優越感を味わうことができ、店に対してさらなる愛着を抱く。その繰り返しにより、常連客が増えるという仕組みだ。

Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
栗田利之

ライター: 栗田利之

フリーランスの記者として、15年以上にわたって外食経営誌の記事を執筆。大手、中堅の外食企業や話題の繁盛店などを取材してきた。埼玉県下を中心に店舗網を拡げている「ぎょうざの満洲」が贔屓の外食チェーン。