障害者への「合理的配慮」が4月1日から義務化。飲食店の大手・中小に聞く現場での対応
飲食店を含む事業者の障害を持つ人への合理的配慮の提供が、4月1日から義務化された。これまでは努力義務だったものが行政機関等と同様の対処が求められることになる。障害者との共生を進める上では大きな一歩となるが、対応が求められる事業者の負担が増えることは否めない。事業者が社会的責任を果たすためにどうすればいいのか、各企業の担当者に聞いた。
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「努めなければ…」から「しなければ…」
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)の改正法が4月1日に施行されたことにより、障害者への合理的配慮の提供が義務化された。
■障害者差別解消法8条
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
文末の「しなければならない」が、改正前の「するように努めなければならない」からの修正部分。「障害者から不便さ(社会的障壁)を解消してほしいという申し出があった時に、その負担が大きすぎなければ障害者の状態に応じて不便さを解消する配慮の提供」、即ち合理的配慮の提供をしなければならない。
飲食店にとって現場でどこまで客の申し出に応じて不便さを解消しなければならないのか、1人1人異なる障害の状態、異なるシチュエーションでの判断は容易ではない。
画像を見る合理的配慮の提供の具体例
実際に合理的配慮の提供の義務化にあたっては改正法施行のおよそ2か月前の2月9日に政府広報オンラインでそのガイドラインが示されている。それによると、合理的配慮の提供は3つの要件を満たす場合に限られる。
1、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。
2、障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。
3、事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと。
要は「ウチは飲食店ですから、従来の業務に関係のないことや、健常者へのサービスを超えるものを要求されても出来かねます」と断ることも可能だということである。
具体例(1)
申し出:飲食店で障害のある人から食事介助を求める申出があった。
対応例:食事介助を事業の一環として行っていないことから、介助を断った。
この場合は飲食店での本来の業務に付随するものではないため、「合理的配慮の提供義務に反しないと考えられます」と内閣府大臣官房政府広報室は説明する。同様に上記の法8条2項にあるように「その実施に伴う負担が過重」にあたる場合にも断ることができる。
逆に合理的配慮の例とされるのが以下の2例。
具体例(2)物理的環境への合理的配慮(肢体不自由の場合)
申し出:飲食店で障害のある人から「車椅子のまま着席したい」との申し出があった。
対応例:机に備え付けの椅子を片付けて、車椅子のまま着席できるスペースを確保した。
具体例(3)意思疎通への合理的配慮(弱視難聴の場合)
申し出:障害のある人から「難聴のため筆談によるコミュニケーションを希望しているが、弱視でもあるため細いペンで書いた文字や小さな文字は読みづらい」との申し出があった。
対応例:太いペンで大きな文字を書いて筆談を行った。
※以上、内閣府大臣官房政府広報室・政府広報オンライン「事業者による障害のある人への『合理的配慮の提供』が義務化されます」から引用
これらの合理的配慮の提供が4月1日から義務化された。仮に事業者が合理的配慮の提供をせず、差別的扱いを続けた場合、主務大臣は報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができる(12条)。事業者に直接的な罰則はないものの、求められた報告をしなかった場合には20万円以下の過料に処せられる可能性がある(26条)ため、各事業者はそれなりの覚悟をもって改正法に向き合う必要がある。