求人募集に90名もの応募! 『北千住fuji』が若者に支持される理由とは【連載:居酒屋の輪】
共同経営だからこそできる大きなチャレンジ
元々、独立志向だった髙橋さんは、25歳のときに「独立したいんだったらここで修業を」と紹介されて株式会社ベイシックスに入社。居酒屋業界屈指のヒットメーカーの元で経験を積み、2016年には『渋谷宮益坂のごりょんさん』、2018年には『ビストロ ミートマン』の立ち上げにも参加し、長きに渡り店長として人気店を牽引してきた。
「入社当時から、独立した先輩たちのカッコいい背中をみて『同じように独り立ちしたい』と心の底から憧れていました。でも、成功者の後を追いかけるより、ちょっと道をはずれて冒険してみたい気持ちも段々と湧き上がってきまして……」(髙橋さん)
そんなおり、「共同で店舗を経営しないか」と誘ったのがベイシックスでの先輩にあたる竹嶋太郎さんだった。
「突然『俺とお前で一緒に会社やろう』と電話が来て、驚きました。ひとまず、その時は返答をせず電話を切ったんですけど……、ベイシックスの卒業生で共同経営している先輩はおらず、考えるほどにワクワクしてきたんです。成功するかもしれないし、思いっきり失敗するかもしれない。でも、シンプルに楽しそうだと思いました」(竹嶋さん)
22歳からベイシックスでアルバイトをしていた竹嶋太郎さん。髙橋さんの1歳年上であり、髙橋さんは入社当時から経験豊富な先輩として尊敬をしていたというが、竹嶋さんとしては「タクヤ(髙橋さん)とは10年ほど同僚でしたが、お互いそんなに意識はしてなかったんじゃないかな?」と当時を振り返る。
竹嶋さんは約14年もの間『てやん亭゛』『bird酉男man』『ビストロ ミートマン』など、月商1,000万円を超すほどの人気店で経験を積み、独立にあたり「居酒屋以外の挑戦もしたい」と思い立ったという。
「一人での経営には限界があります。将来やりたいことを実現するには、自分とは異なる考え方、経営センス、スタッフの教育方針が必要でした。相方としてタクヤ(髙橋さん)が適任だったんですよ」(竹嶋さん)
計画通りに人気を集めた独立店『中野トング』
2022年の11月1日にオープンした独立店『中野トング』は、ベイシックス時代からの定番である「野菜巻き串」を看板メニューに、ビストロ料理を加えることでオリジナリティを確立。中野駅前の飲み屋街を抜けた閑静な住宅地にポツンとある「知っていると自慢できるカッコいい居酒屋」として、瞬く間にファンを増やし、オープンから半年もかからず坪月商35万円に到達する。
「店が繁盛しても、僕ら二人が抜けて次の店舗に力を入れるようになれば、オペレーションが回せなくなり、評判が落ちる可能性があります。そこで1回転ちょっとで成立して、料理も接客も安定したクオリティをキープできるお店を目指しました」(竹嶋さん)
ちなみに『中野トング』の客層はオープン当時から変化している。元々、ブラータチーズの中からピスタチオソースが溢れ出すような「SNS映えするメニュー」を目当てに訪れる女性客が9割以上だった。しかし、そういった客層はリピーターとしては根付かないものだ。SNSでの拡散効果から男性客が増えはじめ「料理のおいしさ」が評価されるようになり、食べログの点数も急上昇。星3.5以上となった現在では男性客が4割程度になり、平均年齢も上がってきたという。
料理の見映えと味わい、両方の質を高めた結果であるが「17坪の広さということもあり、もしも一人での独立出店だったら、このクオリティは絶対に維持できませんでした」と竹嶋さんは語る。
「やりたいメニューを詰め込みすぎて、オープン当初は僕ら2人で仕込みをしても時間がギリギリだったんです。そこで仕込みの手順や分量、火入れなどを事細かにマニュアル化して、入りたてのアルバイトでも活躍できる場を増やしていきました。その経験から、ちょっと場数を踏めば一人で仕込みができて、なおかつオリジナリティの高い料理について考え始めて……。もちろん味も絶対負けたくない訳ですよ。そこから約1年、妥協せずに考え抜いたメニューを『北千住FUJI』で提供しています」(竹嶋さん)
