繁盛店を連発するBANの新業態『めし処 POOL』。ヒット店開発のキーはペルソナとAI
斉藤茜にとっての「日常の延長線上にある贅沢」が業態テーマ
では、『めし処 POOL』の業態開発のプロセスを追いながら、ペルソナがどのように活用されているのかを見ていこう。
『めし処 POOL』の開発でまず決まったのが想定客単価だった。『めし処 POOL』は株式会社BANが業態プロデュースしたフランチャイズ店。加盟店が運営していたカフェダイニングを業態転換したのだが、家賃がやや高く、13坪という小体な物件だったため、売上、客数、収益性から逆算して6,600円という想定客単価が導き出された。
ペルソナのうち、メインターゲットになるのは斉藤茜。ただ、女性のみをターゲットにして業態を組み立てると客層が偏るため、「斉藤茜をターゲットにしながら、鈴木大輔が利用しても違和感がない店」にすることで業態の間口を広げている。
斉藤茜のキャラクター特性は、トレンドに敏感な女性やファッション性の高い女性ではないことだ。「ほどほどにおしゃれで外食経験もそれなりにある」(小泉氏)という標準的な女性をペルソナ化。店がある奥渋谷エリアに洋業態が多かったことから和食を業態の下地にし、そこに斉藤茜が利用する客単価6,600円の居酒屋という外食シーンを重ねることで「日常の延長線上にある贅沢」という業態テーマが生み出されたという。
クオリティはもちろん、盛り付け、彩り、器使いも駆使して商品価値を高める
小泉氏がペルソナとともに業態づくりで意識するのがファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略だ。「価格」「アクセス」「サービス」「商品」「経験価値」をそれぞれ5段階で評価したマトリクスを組み立て、それを業態設計に活かすが、『めし処 POOL』では商品を最高レベルの5に設定したという。
「『めし処 POOL』については価格、アクセスは動かせませんから、差別化の要素になるのはサービス、商品、経験価値の3点になります。ただ、サービス、経験価値のレベルを上げるには現場スタッフのスキルと経験が大きくものをいいますから、FC加盟店にそれを求めるのも無責任。必然的に商品が一番の差別化ポイントになるわけです」(小泉氏)
商品を差別化アイテムに位置付けてはいるものの、ド派手な目玉商品があるというわけではない。ポイントはペルソナが求める「日常の延長線上にある贅沢」という商品テーマをいかに具現化するかということだ。
フードメニューは前菜、温菜、肉料理、土鍋ご飯、デザートの5カテゴリー計30品をラインアップ。イワシの刺身と春野菜をマリネ仕立てにした「お刺身アンチョビの春仕立て」(935円)、アボカドの半身にイカの雲丹和えを盛り付けた「いか雲丹とアボカドのぬか漬け」(825円)、ポン酢の泡をこんもりと乗せた「牡蠣と九条ネギの酒蒸し」(1,100円)など、和食を下地に独自のアレンジを加えた商品がメニューに並んでいる。
いずれの商品も調理や味付けの独自性に加え、彩りのある盛り付けに仕上げ、より商品価値を高めるために器にも工夫を凝らした。その代表格といえるのが、「よだれ鴨」(1,100円)だ。「よだれ鴨」は小泉氏がチョイスした亀甲向付の器に合わせて開発された商品であり、「この器は『めし処 POOL』に求められる商品価値を象徴するアイテムとして他の食器やグラスの購入時のサンプルにしていました」と小泉氏は説明する。
「日常の延長線上にある贅沢」という商品テーマが強く表れているのが4品を揃える土鍋ご飯。売れ筋の「マグレ鴨とフォアグラと筍の土鍋ご飯」(3,300円)をはじめ、具材にフォアグラ、和牛、オマール海老などを用いて豪華な料理に仕上げ、使用する土鍋も一つひとつ色や形を変えて商品の個性化を強めている。
