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『オストゥ』宮根正人シェフに聞く「渾身の一皿」の作り方。無骨さの中に込められた信念とは?

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『オストゥ』オーナーシェフ・宮根正人氏

イタリア・ピエモンテ州の郷土料理を中心に、温もりあるイタリア料理を提供する名店『オストゥ』。腕をふるうのは、ピエモンテ州のバローロ村で長年修行した経験を持つ宮根正人シェフ。「ピエモンテ料理に装飾は要らない」と、イタリアで学んできた料理スタイルを忠実に守ることを身上としている。

そんな宮根シェフが大切にしているメニューのひとつに、「ブラザート・アル・バローロ」という煮込み料理がある。これは、牛のウデ肉やホホ肉を赤ワインで煮込む料理なのだが、その見た目は無骨な印象を受けるほどシンプル。“装飾は要らない”と語る宮根シェフの考えを見事に表している一品といえるだろう。

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宮根シェフのスペシャリテ「ブラザート・アル・バローロ」

バローロ村で過ごした5年間

宮根シェフが北イタリアに渡ったのは2002年。バローロ村唯一の一ツ星レストラン『ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティコ』で修業を始めたときは、この地に5年もいるとは思っていなかったという。

『ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティコ』は25席ほどの小さな店で、シェフのマッシモがすべての料理を取り仕切っていた。そのため、宮根シェフはなかなか料理をさせてもらえない状況が続いたのだという。そしてある日、転機が訪れる。マッシモがより大きな店を任されることになり、宮根シェフもその店へ異動。マッシモの右腕として活躍する機会を得たのだ。こうして少しずつキャリアアップを重ねながら、宮根シェフは5年間をバローロで過ごしていく。

「シェフ・マッシモの人柄が好き、村の温かさも好き、そしてピエモンテ州の素朴な料理も好き……。それで長い滞在になりました。多少は郷土料理とその背景を知ることができたと思いますが、伝統や文化はさらに奥深いもので、外国人が簡単に理解できるものではありません。だからこそ、ピエモンテ料理を自分なりにアレンジするようなスタイルは、私はとりません」

冒頭の「ブラザート・アル・バローロ」は、『オストゥ』の郷土料理コースのメインとして提供され、店のファンもこの料理を目指して足を運ぶ。シェフのスペシャリテであり、かつ、客を呼べる人気メニューでもある。

味を再現するのには苦心したようで、牛肉はいくつかの部位を試したが、ほどなく国産牛のほほ肉に落ち着いた。肉を煮込むときに加えるのは、香味野菜、ハーブ、そしてクローブやねずの実といったスパイス。酒は赤ワイン、マルサラ、ポートワイン、さらにバルサミコ酢なども用いる。また、そのときどきの肉質によって煮込む時間は加減するという。工程は少ない分、タイミングが大切だ。

「ほほ肉はゼラチン質が豊富で、煮込むと繊維をあまり感じさせない、とろりとなめらかな口当たりになります」

付け合わせはポレンタ。これも伝統のスタイルだ。さっぱりと仕上げた素朴なポレンタの甘さが、濃厚で強い味わいの牛肉を煮汁ごと柔らかく受け止める。

「これが一番合うし、他のものは一切要らない」と宮根シェフは言いきる。この珠玉の一皿に、“ワインの王様”と称されるバローロ・ワインを合わせれば、バローロ村の広大な風景が目の前に広がるはずだ。

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バローロ・ワインの中でもおすすめの「ジョバンニ カノニカ」

ピエモンテ料理の “温かさ”は寒い冬にこそ求められる

ちなみに宮根シェフはこんな言葉も漏らしていた。

「当店は秋冬はお客様が多いのですが、春夏はなかなか……。それはもう、はっきりしています。でも、これからのシーズンは忙しくなりますよ」

冷ややかな秋風が吹くと、赤ワインや重厚な料理が恋しくなる。『オストゥ』では涼しくなると客足が伸びるそうだが、それは恐らく、長年のファンがこの店の楽しみ方を知っているからだろう。

『オストゥ』は代々木公園の脇の静かな一角に位置する。これから紅葉が色づき、次第に落ち葉が舞うようになる。そんな景色の中で灯りを煌かせ、賑わう様子がありありと思い浮かぶ。そして賑わいの中心にあるのは、宮根シェフがこだわり続ける“飾らない”ピエモンテ料理たちだ。

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『オストゥ』
住所/東京都渋谷区代々木5-67-6 代々木松浦ビル1F
電話番号/03-5454-8700
営業時間/18:00~L.O.22:00(火~金)、12:00~L.O.13:00/18:00~L.O.21:00(月・土・日・祝)
定休日/水曜
席数/16
http://www.ostu.jp/

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ほんだこはだ

ライター: ほんだこはだ

グルメ、ライフスタイル、旅、恋愛、まちづくりなどの記事を各種サイトに執筆中。大手グルメサイト、ローカルビジネスサイトで多数の飲食店取材を経験。オシャレ食材を家庭料理にして食べるのが趣味。