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異色の経歴を持つグルメバーガー界の新星『ICON』。回り道で得た個性ある「味」

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『ICON』のオーナー・片寄雄太さん

東京・渋谷区は、「グルメバーガー」の有名店が顔を揃える激戦地だ。そんな場所に、グルメバーガーに情熱を注いできたひとりの男性が3月15日、新店をオープンさせた。

代々木駅から徒歩10分ほど。小田急線・南新宿駅の路地裏に佇むカジュアルなハンバーガーショップ『ICON(アイコン)』。オーナーは片寄雄太さん、『ICON』の経営のほかにデザイナー、バンドマン、カメラマン、ライターの顔も持つ、じつに多彩な才能の持ち主だ。

この業界では異例と言えるキャリアを辿ってきた彼が、なぜハンバーガーショップのオープンに至ったのか。その理由を紐解いていく。

店内にはハンバーガー関連の本・グッズが並ぶ

音楽業界からデザイナーに転身。しかし夢はハンバーガーショップの開業

今年35歳になる彼は、前述の通り、非常にユニークな経歴の持ち主である。バンド活動に力を入れていた音楽の専門学生時代を経て、音楽雑誌編集部に入社。その後フリーのデザイナーに転身し、2014年に広告デザイン業務に特化したAnd-Fabfactory株式会社を立ち上げている。一見、ハンバーガーとは無縁の生活をしてきたように思えるが、実は15年前からハンバーガーショップの経営を考えていたそう。

「専門学生時代に今は老舗と呼ばれている三軒茶屋の『ベーカーバウンス』に連れて行ってもらって、“すげぇ美味い”って。一瞬にして、ハンバーガーショップをやりたいと思ったんです。それからあちこち食べ歩きをするようになって、ブロガー並みには食べてきたと思います。それから15年。会社立ち上げ時に作った登記簿に『飲食店』と記載してはいましたけど、こんなに早いタイミングで開業できるとは思っていなかったから、自分でもビックリしています」

いわゆる普通のハンバーガーとは違う、ボリューミーな「グルメバーガー」。週2~3で食べ歩きをする中で、SNS黎明期から行く先々のグルメバーガーを記録用に撮り続けてきた。彼が虜になった理由の1つは、そのビジュアルだ。

「ハンバーガーは食のアイコンになる。例えば飲食禁止のマークは、ハンバーガーに一方通行の線が引かれたものになってるじゃないですか。味もデザインもビジュアルも完成されているところが魅力的で、そういう意味ではデザイナーの目で好きになったのかもしれない。だからうちの店の名前も『ICON(アイコン)』にして、ロゴも一目で見てハンバーガーと分かるようなロゴにしたんです」

『ICON』のハンバーガー

原価率は40~50%。「絶対に妥協はしたくない」

長年開業を夢見ていただけあって、店名、ロゴ、メニューは難なく決まっていったそう。しかし、ベーシストとしてサポートを務めるバンドの公演がオープンと前後して入ってしまい、準備期間はなにかと慌ただしかったと振り返る。これもまた、彼ならではの異色のエピソードだ。

「でもずっと考えてきたことだったから、『なんとかなるんじゃないかな』と思ってました。以前居抜きで入ってた店もハンバーガーショップだったから、内装はほぼそのままで、ペンキを塗って椅子を変えたくらいで済んで。だから資金はそこまで掛からなかったんです。家賃が安いことも助かってるかな。そのおかげで食材にお金を掛けることができています」

原価率は一般的に30%が望ましいと言われる中で、『ICON』は原価率40~50%と高めで勝負。「絶対妥協はしたくない」という思いからこの原価設定になった。バンズは高田馬場の『馬場FLAT』で特注。肉は株式会社プレコフーズから仕入れているブラックアンガス牛のブロック肉から作る「手作りビーフパティ」を使用し、季節の野菜は知人に紹介してもらった農家から取り寄せているという。

「素材にこだわった分、原価率はかなり上がりました。グルメバーガーが好きな人は見ただけで、どこの業者から取り寄せているか分かるし、自分も食べ歩きをするなかで、どこのバンズを使ってるか分かるようになった。だからこそ、できるだけ他の店と差をつけたかったんです」

新メニューの大きな魅力となっているスパイス

今までやってきたことに全部意味があった

愛好家らしくスパイスにもこだわりを見せる。6月からレギュラーメニューに加わった「ペッパーペッパーペッパーバーガー」には“世界一美味しい”と言われているカンボジア産の胡椒を使用。カンボジアの胡椒はなかなか一般に流通しないそうだが、ハンバーガーが引き寄せた縁で、手に入れることができたと教えてくれた。

「偶然、近所のカンボジア料理屋さんが、外に出していた看板のロゴを見て気に入ってくれたらしくて。それをキッカケにうちのスタッフが仲良くなって、話の流れでデザイン会社をやっていることを言ったら、『カンボジア産の胡椒を通販で売りたいから、そのパッケージを作ってくれないか』って仕事の依頼を受けて。その仕事を請け負うときに胡椒をもらったんですけど……味が全然違う。香りも味も凄くいい。黒胡椒の他に、さらに珍しいと言われているカンボジア産の生胡椒も仕入れさせてもらえることになって、おかげでほかにはないオリジナルの胡椒バーガーを作れるようになりました。単純に飲食店だけでやったら、こんな縁はなかったと思います。今までやってきたことに全部意味があったと思うし、面白いなって」

「店を続けること」が最大の夢

ある意味、彼のキャリアの集大成とも言えるグルメバーガーショップだが、「まだまだこれから」と表情を引き締める。

「店をオープンさせることがゴールではなくて、食べてもらって、全員に美味しいって言ってもらえるまでがゴール。あともう1つのゴールは……絶対に店を潰さないこと。一生続けること。それは一番意識していたことでした。色々な飲食店を見てまわって感じていたことが、営業時間内に必ず手の空く時間帯が出てくるんですよね。その時間帯にデザインの仕事ができるので、デザインの仕事でバランスをとって、店を潰さないように頑張ろうと。『開業時は半年間、給料ゼロでも困らないくらいにはお金を貯めておけ』とよく聞きますが、そのお金がなくても、定期的に稼げる仕事があったから、自信はなかったけど勝算はありました。むしろ、それがうちの強みなのかなと。それを活かして、これからも続けていきたいと思ってます」

好きが高じて、夢のスタート地点に立った片寄さん。「人生には無駄な経験などひとつもない」とはよくいう言葉だが、開業までのこの道のりは、遠回りに見えて、実は正しい近道だったのではないだろうか。様々な分野の仕事で培ってきた感性とネットワーク、オリジナルの経営術で、これから渋谷区のグルメバーガーショップの顔へ成長していくに違いない。

デザイナーがオーナーだけに、店内は彩り豊かな空間

『ICON』
住所/東京都渋谷区代々木2丁目30-4 ヨシダペアランドB棟101
電話番号/03-6385-2587
営業時間/11:30~21:30(火~金)、11:30〜15:00(土日祝)
定休日/月曜
http://burger.tokyo
https://www.facebook.com/ICONyoyogi

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。