六本木『串かつ男/男おでん』、年商10分の1になって得た人生の平穏【連載:居酒屋の輪】
たとえ1坪の店であっても夢は叶う
「コロナ禍の影響で優秀なスタッフたちが店を去ってしまって。手間暇かける楽しさもありますが、私一人で仕込みをしていることもあり、手を抜くところは抜いています。それでも、ありきたりな街のおでん屋にはなりたくない。どうすれば、おでんでお客様に驚きと感動を与えられるのか、日々考えています」
深夜営業は取りやめた『串かつ男/男おでん』だが、平日のランチ営業は続けている。「手を抜くところは抜いている」と伊藤さんは言うが、シーズン別に二毛作ビジネスを続けていくことは並大抵の苦労ではないだろう。
「ランチはお隣がすごい行列店なので、そのおこぼれをいただいています(笑)。利益率は良くないのですが、名古屋めし好きの皆様が通ってくださるので、なかなか止められません。もともと色々な業態をやるのが好きなんですよ。変わったことをするのも好き。そして、この考え方が1番危険なんです(笑)。一風変わったパッケージを作るぐらいじゃ、日本の外食産業では通用しません。現在、私がなんとか飲食業界で生き残れているのは、たくさんの先輩や後輩からのアドバイスのおかげです」
ドラマのロケ地に選ばれるなど運もあったが、結局は「人とのつながりが全て」と、これまでの道のりを総括する伊藤さん。「もう多店舗展開は全く考えていません」と言いながら、最後に「もしもチャンスがあるなら」と夢を語ってくれた。
「今の店舗を長く続けることができれば十分満足です。一昔前まで、売上高や上場などで飲食店の成否を考えていましたが、もう時代は変わったと思います。それぞれの理想が多極化し、個人が自由な考え方で飲食店を経営する時代になりました。それでも、本当に儚い夢なのですが、大学生になった娘や息子と一緒に小さなたこ焼き屋をやりたい。自宅のある武蔵小杉の近くで。5〜6坪ほど、いや1坪もあれば十分です。あの周辺はファミリー層が非常に多くて、どのお店もすごく繁盛していますから」
若かりし頃には、身一つで成り上がる人生にも憧れるものだが、激しい競い合いの中で勝ち続けるのは一握り。一見すれば成功を収めたように見えても、競争を続ける限り心の平穏が訪れることはない。大きくても小さくても居酒屋経営者であれば一国一城の主。何の変哲もない大根を多くの人が感動するおでんに変える、それもまた名店なのだ。
『串かつ男/男おでん』
住所/東京都港区六本木7-10-4 福一ビル1F
電話番号/03-3479-0094
営業時間/11:30~14:00、18:00~22:30(L.O.21:45)、土曜18:00〜22:00(L.O.21:30)
定休日/日曜
坪・席数/13坪・30席
