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日本の食文化を世界に知らしめたミラノ万博。成功の陰に、作り手たちの想いあり

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ミラノ万博にサポーターとして参加した芸人・木村祐一氏も登壇した

今年5~10月、イタリア・ミラノで“食”をテーマに開催された「2015年ミラノ国際博覧会(以下、ミラノ万博)」。日本は農林水産省と経済産業省が主導し、“共存する多様性”をコンセプトにさまざまな展示・イベントをおこなった。結果、228万人もの来館者を迎え、そしてパビリオンプライズでは展示デザイン部門の金賞を受賞する偉業を成し遂げた。

その成果を振り返る「ミラノ発 日本食・食文化再発見シンポジウム」が11月27日、東京・丸の内の日本生命丸の内ガーデンタワーで開かれた。今回はその模様を詳しくお伝えしていく。

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日本館は伝統的な工法である立体木格子で建てられた。Photo by Norio NAKAYAMA「EXPO Milano 2015 Japan Pavilion」

「多様性」をアピールする日本。「画一化」をアピールするアメリカ

5年に一度開催される大規模博。今回のミラノ万博は“地球に食料を、生命にエネルギーを”というテーマで開催され、145の国と3つの国際機関が参加した。

日本館のコンセプトは“共存する多様性”。これは、日本食や日本の食文化に詰め込まれた多様な知恵と技が、人類共通の課題解決に貢献し、そして多様で持続可能な未来を切り拓く力がある…という考えのもと作られたもの。農林水産省食料産業局長・桜庭英悦氏は「日本の農林水産業は、生態系を崩すことなく自然と共生できる大変優れたもの。こうした技術を世界で役立て、食料供給力を増やしていくことが我々の考え。そして各国の食文化に敬意を払い、多様性を大切にしていく。これが日本館を通して表現したメッセージです」と語った。

日本が「多様性」をアピールする一方で、世界的に見ると「食の画一化」が進んでいるのも事実。大企業が食料を大量生産し、安定的に食料を供給する。そんな流れが世界で出来つつあるのだが、この考えの先頭に立っているのがアメリカだ。アメリカ館では「世界の食料危機は私たちが救います」と演説するオバマ大統領の映像が繰り返し流されていたという。

「アメリカは食料生産を大規模化して大量に提供していく、というのがテーマだった。一方でカザフスタンやドバイは“どう水を確保していけばいいのか”、そしてスイスは“生産量が限られている地球の食料をいかに分け合えばいいのか”をテーマに展示をおこなっていました。要は国によって抱えている問題、不安視している問題が違うわけなんです。この違いにこそ万博の面白さがあるな、と感じましたね」

そう語るのはJA常務理事・金井健氏。JAは日本の農畜産物をアピールするためにさまざまな活動をおこなったようで、なかでも和牛のアピールは大変な成果を上げ、ミラノ万博をきっかけに、EU加盟国であるイギリスへの焼肉店出店を決めている。こうして飲食店とともに食材を輸出することで付加価値を高める狙いがあるという。

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産地から食卓まで多種多彩なコンテンツが流れ落ちる「ダイバーシテ ィの滝」。Photo by Norio NAKAYAMA「EXPO Milano 2015 Japan Pavilion」

日本館の製作には、気鋭のクリエイターたちが参加

パビリオンプライズで展示デザイン部門の金賞を受賞した日本館。具体的にはどのような展示がおこなわれたのだろうか?

展示のプロデュースは電通が担当。日本国内の著名クリエイターを採用し展示作品を作り上げた。なかでも「チームラボ」や「ライゾマティクス」といった世界的な評価を受けるアーティスト集団を起用したのが成功の大きな要因と言えるだろう。

コウノトリを主役に日本の四季や田園風景を描いた映像作品、「一汁三菜」などの日本の食文化をグラフィカルに表現したショーケース、メディアアートをふんだんに用いたライブパフォーマンスなど、いずれも最新技術を使用してはいるが、そこには日本の風土や伝統、そして食文化がしっかりと描かれており、それが多くの来館者から好評を得たようだ。

日本館運営の意図、感想について、農林水産省の桜庭英悦氏はこのようにコメントしている。

「私たちは日本の食文化を世界へ広めていくために、大変長い戦略を練っています。和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたのを“ホップ”、今回のミラノ万博を“ステップ”、そして2020年に開催される東京オリンピックを“ジャンプ”と捉え、今後もさまざまなことを実施していきます。世界中には89,000店もの日本食レストランがありますが、その中で日本の食材を用いている店舗はほとんどありませんし、料理人も見よう見まねで作っているのが現状です。そういう意味では、今回のミラノ万博は日本の食文化に世界中の人々が触れていただくいい機会になりました。今後もさまざまな国でこうした機会を作り、日本食材の海外輸出を活発にしていきたいと考えております」

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日本食が説明されているパネル。Photo by Norio NAKAYAMA「EXPO Milano 2015 Japan Pavilion」

今後の発展はイメージ戦略にかかっている

日本の食文化を海外へ発信していくのは、大きく2つの狙いがある。ひとつは日本食材の海外輸出を活発にすること、そしてもうひとつは外国人観光客の呼び込みだ。いずれも年々拡大傾向にあるが、今後さらに発展させていくためには、日本の食文化をただ紹介するのではなく「コンテンツ」としてアピールしていくことが重要だと、今回のシンポジウムでは度々語られた。印象的なコメントをいくつかご紹介しよう。

「フランスは農業大国でもありますが、一方で航空機メーカー・エアバスを有していたりと工業国の側面もある。しかし、世界中の人々がフランスをイメージするとき、頭の中に思い浮かぶのはプロヴァンスをはじめとした田園風景です。これはフランス=ワインというイメージが世界中に根付いているからでしょう。私たちも日本の食材を輸出する際は、日本という国のイメージも同時に輸出する気持ちでやっていかなくてはならないと考えています」(JA常務理事・金井健氏)

「世界へ向けて、日本の食の歴史、生産者の想い、料理人の技術などを丁寧に発信していくことで、日本食の付加価値がさらに高まっていくと考えています。それは一汁三菜などの伝統もそうですし、とんかつやハンバーグといった日常食もそうしていく必要があります。私はジャーナリストとして、こうした付加価値の創造に貢献していきたいですね」(フードジャーナリスト・里井真由美氏)

「まだ日本食に興味を持っていない外国人をいかに振り向かせるか。今後はこれが大切。そのためには、日本を代表するメニューをひとつ決めておいた方いいと思います。富士宮市がやきそばで、宇都宮市が餃子で街おこしをしたように、日本といえばコレ!というメニューを開発できれば、もっと日本食が世界に広まっていくんじゃないですかね」(芸人・木村祐一氏)

来日する外国人観光客はここ数年で急増しており、インバウンド対策が重要だとあらゆるメディアで叫ばれているが、世界一の観光大国であるフランスに比べるとまだまだ伸びしろがある。今後さらなる観光客増加を狙うなら、日本全体をあげてイメージ戦略に取り組んでいく必要がありそうだ。

日本の食文化を未来へ継承していくためには?

シンポジウムの最後に、農林水産省の桜庭氏はこのような話をしていた。

「和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録されましたが、これはつまり“日本の食文化を未来に向けて継承していく”と国際的に宣言したことと同じ意味を持ちます。これをしっかりと胸に留めながら、今後も活動に取り組んでまいります」

農林水産省の活動は、今後、外国人観光客の増加といった形で飲食店にも影響を与えていくだろう。こうした観光客へ日本の食文化を正しい形で伝えられるよう、飲食店側も高い意識を持って日々の業務にあたる必要がありそうだ。

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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