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急成長『有楽町かきだ』蛎田一博氏の「ビッグニッチ」戦略。支えた効率化と人間関係

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ボリューム満点! 見た目にも華やかな『有楽町かきだ』の寿司

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効率化の裏にある、職人への深いリスペクト

②旧来の丁稚奉公的な人事マネジメントを脱した
これは「修業時間ゼロ」の逸話に関連する。高級寿司店の職人の修業時間は長く、一般に「飯炊き3年、握り8年」、客の前で寿司を握るまでには10年近い年月が必要とされる。それだけ「寿司道」の奥は深いということであろうが、逆に言えば10年もの間、寿司を提供する機会に恵まれないことになる。

「私はサラリーマンで営業を経験しました。最初はロールプレイで仲間同士練習してみるわけです。このロールプレイばかり10年続けて営業に出てうまくいくと思いますか? ある程度練習したら現場に出て、実際の現場で技術を磨いていきます。10年も営業現場に出ないで、いきなり営業できるわけがありません」

伝統的な寿司店からは「まだお客様の前に立てる技術はない者に握らせるわけにはいかない」という反論があるかもしれない。それはそれで一定の合理性はあるが、それは高級寿司店の理論で、それゆえ客単価3万円、5万円でも経営が成り立つのであろう。『有楽町かきだ』は客単価1万円程度であり、伝統的高級寿司店の人事マネジメントを採用していたら、とてもではないがその価格は実現できない。また、顧客もそうした営業を望んでいないであろう。

また、実際に客の前で握り続けることで技術の上達が見込める上、その時点でベストな技術を提供しているのは事実だ。こうした考えはパソコンのOS、もしくはアプリの進化に似ている。順次アップデートしていくことで細かなバグを修正し、ユーザーの使い勝手を向上させ、その時点での最善を提供してユーザーを満足させる。そう考えると極めて現代的な発想と言えよう。

現時点でのベストの技術を提供している

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③寿司に関わる職人をリスペクトし、その才を活かした
誤解を受けやすいが、蛎田氏は寿司業界の伝統の破壊を目指しているのではなく、その世界の人々の技術をリスペクトし、それを活用することで自社に適した寿司の可能性を広げようとしている。毎朝、午前6時半に豊洲市場に出向いて自ら仕入れを行うが、信頼できる仲卸人の目を全面的に信頼して仕入れる。

「毎日見ているので、私もそれなりにいい魚は分かるようになりましたが、目利きという点ではプロは仲卸人です。ですから私は仲卸人の目を信頼して買います。そうすると、仲卸人も『蛎田のためにいいのを仕入れないと』と考えてくれるようになるものです」

こうした話を聞くと、転職エージェントの会社を経営していることにも合点がいく。転職を目指す者は自らの一番のセールスポイントをアピールして、転職したい企業への就職を目指す。企業側はその人の持つスキルを最大限経営に活用したいと考える。蛎田氏の仲卸人への信頼はまさにその理論だ。そしてもうひとつ大事なことは、毎日市場に行くことである。

「必ず市場に行って自分が仕入れます。仲卸人の方にはLINEやメッセージで『これとこれを⚪︎kgください』と伝える形でも買うことはできますが、実際に顔を合わせることは大事だと思います」

ビジネスの効率性を考え、緻密なシミュレーションを重ねることは重要であるが、顧客が最後に店を選ぶポイントは「店員の笑顔が良かったから」といった人間関係のウエットな部分で決することは少なくない。成功の要因は案外、こうした地道な努力にあるのかもしれない。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/