高円寺のベトナム料理『チョップスティックス』、国産米の生麺フォーに賭けた男の意地
勉強に勉強を重ねた上での改善
フォーと並ぶ日本で人気のバインミー。見た目はフランスパンに近く、そこにサンドイッチのようにハムやパテ、豚肉などを挟み食べる。『チョップスティックス』のバインミーもやはり日本人向きの味わいになっている。
頬張るとパリッと外のパンが崩れ、中のふんわりとしたパンの部分と具材が口の中に広がる。形はフランスパンだが、それより柔らかく、パンが料理に対して主張しすぎない。パン生地が厚いので、甘い香辛料もそれほど甘さを感じずほどよい味わいとなる。何より、カリカリした外部の食感、ふんわりとした内部の食感のハーモニーが心地良い。
言葉が適切かは分からないが、『チョップスティックス』の日本向けにカスタマイズされたベトナム料理には、本場のベトナム料理に対する劣等感のようなものはない。
「(首都)ハノイの人はハノイの料理しか知りませんし、ホーチミン(旧サイゴン、旧南ベトナムの首都)の人はホーチミンの料理しか知りません。私はベトナム全国、北から南まで20回以上、色々な所に行ってます。ベトナム人よりもベトナム料理のことを知っていると自負しています。製麺、製パンも全部見てきて、そういうのを全部勉強し、知った上でフォーやバインミー、それ以外の料理を作っています。確かに色々と言ってくる人はいます。『これはフォーではない』とか。でも、私たちはそれを知った上でおいしい物を作っているのです。カオラウ(中部のホイアン市の名物)の製麺所に行ってる日本人なんてほとんどいないと思います。バインダークアという(北部の)ハイフォン市でしか作っていない麺もそうです。そうした勉強をして、日本でメニューに取り入れていくということをしています」
ベトナム人のシェフを日本に連れてきてベトナムの料理を正確に再現するのも一つの考え方であるが、そうした方法を取らず、いかにおいしくするかを追求する中で料理を進化させていく。それが『チョップスティックス』の成功の秘訣と言えるのかもしれない。人気の生麺フォーは現在も開発を継続しており、さらに美味しさを増すように研究を続けている。近々、フォーをリニューアルする可能性はある。そうしたことを考えると「本場を超えるベトナム料理」という表現がしっくりくる。
文化交流の視点からのベトナム料理
今後の展開については、生麺フォーとバインミーを柱にしたファストフード業態の開発を考えているという。同社は都内で直営10店舗ほどを上限にし、いたずらに拡大路線は取らない考え。ただし地方都市でのフランチャイズ展開には興味を持っているという。
こうしたビジネスの展開については料理を通じた文化交流の視点でもとらえている。
「ベトナム料理は中華やフレンチの影響を強く受けていますが、そこに東南アジアならではの食材やハーブ類が組み合わさり独自の食文化を作っています。食べることをとても大切に考える国民性も相まって美味しい料理がたくさんあります。料理を知ってベトナムに興味を持つ、あるいは仕事で行って料理の美味しさに気付くこともあるかもしれません。異文化理解、文化交流の中で、料理の存在はかなり大きいと思っています」
異文化理解のための食、食から始まる異文化理解があってもいい。
『チョップスティックス高円寺本店』
住所/東京都杉並区高円寺北3-22-8 大一市場内
電話番号/03-3330-3992
営業時間/平日11:30~L.O.14:30/17:00~L.O.21:50、土日祝11:30~L.O.21:50
席数/24
茂木貴彦(もぎ・たかひこ)
1974年、群馬県藤岡市出身。帝京大学卒業前に米加州サクラメントでホームステイをしたことで世界観が変わり、家業の建築業ではなく飲食業に進むことを決意。都内の創作料理店で修行し、その後、英国の日本食レストランに勤務。帰国し、28歳の時にシンガポールの国民食である「海南チキンライス」を中心としたアジアの料理の店を共同で開業。2003年にベトナム料理に特化したチョップスティックス(高円寺本店)を開業した。現在は6店舗を経営している。
