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都立家政『ニコミマル』、あえて月商200万円に。逆境で光るポジティブ力!【連載:居酒屋の輪】

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スタッフを紹介するトイレの張り紙。現在はDくんが『カクニマル』の店長である

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スタッフを成長させるために、あえて目標を低く設定する

そもそも「渋谷『カクニマル』独立者第1号のつもりで2店舗目を出店」したという黒川さん。渋谷からお客さんが絶対に流れてこず、周囲の仲間の力を借ることもできない場所のほうが「スタッフの勉強になると思いました」と語る。

味噌煮込み748円はテイクアウト需要を想定した名物。目の前で盛り付けるライブ感がたまらない

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売上が伸びてスタッフが増えると「教育が行き届かなくなる」というのが繁盛店でよく聞く悩みごと。「ここの『ニコミマル』ではマンツーマンで教育ができるので、代わる代わる渋谷のスタッフを呼んでいます。水を与えないと枯れてしまう才能もある訳ですから。やはりここに出店して良かったと感じています。最終的な売上目標は月300万円。家賃は12万円なので、今の売上でも十分に続けていくことができるんですよ」。クレーム対策のために上層階も事務所として借りているそうだが、それでも経営は順調だという。

セットのバケットは近所のパン屋『アネモネ』のこうすけさんが焼いたもの

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「スタッフは飲食未経験者がほとんど。できる限り料理は簡単な方が良いと考えています。例えばキャベツの千切りができなかったとしても、百切りと銘打って売り出せばいいんですよ。大切なのは、脱サラしたメンバーが楽しそうに働きながら、成長していく過程をお客さまにも感じていただくこと。そうすれば『じゃあオレもやろうかな』となるので人材募集をかける必要もないんです」

調理はシンプルでも5種類の味噌を使うなどして味わいを深めている

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人の成長を感じながら飲む酒こそ何よりの幸せ

黒川さんは酒の〆に「本気でラーメンが作りたい」と発案したスタッフを止めたこともあるという。

「それは飲んだ後に美味しいラーメン屋さんへ行けばいいんだよって(笑)。うちのはおでんマシーンに冷凍うどんを入れるだけ。2分もすれば出汁の染みた美味しいてぬきうどんの出来上がりです。実際、酒の〆にはこういうのが食べたいんですよ。

おでんマシーン自体は『活惚れ』の松永大輝さんから譲り受けたもの

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独立当初なんて『素人包丁でくのぼう』という店名にしようかと思っていたぐらいです。そうしたら楽のお父さんに『いい言葉じゃないからやめた方がいい』と言われてしまって。それで悩み込んでしまった僕に対して申し訳なく思ってくれたのか、楽のお父さんから電話がかかってきて、店名は『とろ〜り角べゑ』でどうだ?って。『汁べゑ』の『べゑ』を使っていいぞと言ってくださったのですが、あんまりカッコよくないなって(笑)」

『べゑ』を使用した場合は『汁べゑ』の看板に頼ることになる。店名の響きではなく、そうした何かの力を借りる行為が「あんまりカッコよくない」と黒川さんは感じたという。

丸いニコニコマークが3つで『ニコミマル』。この店名も楽出身の先輩の助言があればこそ

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「その翌日、じゃあ『カクニマル』ならどうだ、とまた電話がかかってきて。マルの中に、ひらがなの『に』を入れて反時計回りで90度回転させたら、ニコちゃんマークになるな、なんて考えたらどんどん愛着が湧いてきたんです」と、恩師である宇野社長とのエピソードを振り返る。

黒川さんの実家にあったぬか床。こちらも独自のワードセンスで魅力をアップさせている

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「じつは大学でサッカー選手を諦めた後は、高校教師を目指していたんです。人が成長する姿を見るのって楽しいじゃないですか。今の自分の夢はスタッフが独立して開いた店で酒を飲むことです。ちょうど1人目が物件を探しているところ。そろそろ夢は叶いそうなのですが……。次は地元の埼玉にお店を開きたいですね。地元に貢献している飲食店経営者って、やっぱりカッコいい。くすぶっている人を雇って東京の居酒屋にも送り出せたら楽しいかな、なんてことを考えています」

仕事を教えたスタッフが立派に働く姿を見ながら酒を飲むのが「最高の贅沢。これがオレの幸せなんだ」と感じる黒川さん。そうした粋な生き方も、楽コーポレーションで培われたものなのだろう。こうして受け継がれていく居酒屋スピリットを感じながら、味噌煮込みや刺身盛りで一杯やれる『ニコミマル』。まだまだ繁盛店とは言えないが、その発展の過程を楽しめるところもまた名店たる所以なのだ。

『二五三◯(ニコミマル)』
住所/東京都中野区若宮3-36-11 
電話番号/03-6383-0253
営業時間/17:30〜23:30、日曜・祝日16:30〜22:30
定休日/年中無休!!のつもり
席数/14

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。