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8坪の狭小店ながら月商300万円。三鷹『おでん都』の時代に即した店づくり【連載:居酒屋の輪】

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入口のすぐ前で煮込まれているおでん。上品な出汁の香りに引き込まれるお客さんも多い

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「丁寧につくってくれてありがとう」と思わず感謝したくなるおでんダネの数々

おでんの肝心要である出汁は、昆布と煮干し、そしてマグロ節。『ひまり屋』時代の常連客の実家が宮城県名取市で乾物屋をしている御縁から、上質なものを直送してもらっているという。

綺麗な味わいを意識して毎日丹念に出汁を抽出。あとはネタを煮込めば仕込みは終わり、かと思えば「おでんネタの半分以上は注文を受けてから作るバイオーダーなんですよ」と西岡さんは説明する。

極厚ながら柔らかい「茹でたん」550円。出汁との旨味の相乗効果がたまらない

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「例えば、名物のひとつ『茹でたん』は作り置きするとパサついてしまうんです。事前に圧力鍋で1時間半ほど下茹でして皮をむいておき、オーダーごとに最後の仕上げをします。それとは逆に、練り物は入荷した時点ですでに完成形のため、煮詰めると色も味も段々と抜けてしまう。これもオーダーごとに出汁で温めなければいけません」

おでんは220円から。おまかせ3品で550円などお値打ち価格

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ほかにも「しらたき」は作り置きできるメニューながら、ひとつずつ手作業で巻き上げているそうだ。

「非常に美味しい『しらたき』なのですが、毛糸だまのような状態で販売されていまして。これをほぐしてから丁寧に巻き直すとほかにない食感になるんですよ。仕入れに関しては、豊洲の仲買さんにお任せしているものもあれば、行きつけの魚屋などで拾い買いした食材も揃えています。『京がんも』などは地元・調布の深大寺にある豆腐屋さんから仕入れていて、どれも本当に美味しいですよ」

「たまご」220円や練り物にはオリジナルの焼印を入れて視覚的なおもしろさを演出

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たまご型の愛らしいオリジナルキャラクター「だるたまくん」は西岡さんの奥さんによる創作。視覚だけでなく味や食感にもこだわっており、下茹でして味を染み込ませたものを、オーダーごとに4分かけて出汁で温めてから提供する。

美しい半熟加減の「たまご」。220円とは思えないほどの手のかかりようだ

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「料理に手間暇はかけていますが、営業中も火入れに専念しなければならない焼き鳥などとは異なり、ワンオペでもどうにか手が足りる業態です。スモールスタートながら満足できる売上も出ています。現在はどうしても2階まで手が回らないこともあり、スタッフを募集していますが……、子育て中の妻が時間をみつけて仕込みを手伝いに来てくれることもありますね」

子育て中の奥さんがむいたという「むきズワイガニ」1,320円

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再開発の波が到来するおそれもあるが、今のところは順風満帆

ちなみに店名の「都」という文字は、奥さまの名前から取ったもの。息子さんや娘さんの名前にも付けているという思い入れが感じられる一字だ。今後は「都」の名がつく新店舗も登場しそうである。

「多店舗展開は考えていませんが、スタッフが増えれば新しい店舗もつくりたいです。この場所での営業は、ずっと続けられる訳ではないとも考えていて。周辺の再開発を狙う企業はたくさんあるでしょうから。八丁通りの街並みを守りたいと考えている大家の方々もご高齢ですし……時間の問題かもしれません」

年々様変わりしている三鷹駅前と同様に、いつかはこの古き良き飲み屋街にも再開発の波は押し寄せるのだろう。「次はもう少し高級感のあるお店をつくりたいですね。できれば完全週休2日制も実現したいです(笑)」と西岡さんは前向きだ。

時代が変わっても、愛され続ける名店の本質は変わらない。それでも、先を見越した戦略を考えなければ、コロナ禍のような災禍を乗り越えるのは難しいものだ。小回りの効く船だからこそ回避できる大波もある。超狭小店の強みを活かす『おでん都』は、まさに順風満帆だ。

『おでん都』
住所/東京都武蔵野市中町1-19-9
電話番号/0422-90-7125
営業時間/17:00〜翌日1:00(L.O.24:00)
定休日/日曜(不定休あり)
坪・席数/8坪22席前後(スタンディングあり)
https://www.instagram.com/miyako2020rn/

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。